暑い、暑すぎる。もう冷房と扇風機のある部屋から出たくない……。
 現実に命の危険がある昨今の日和、いかがやり過ごしでしょうか。当方では塩分補給に井関の塩飴が手放せません。なんでも今年はレモン味に加えてグレープ味とライチ味が発売したとかで、なにそれ食べてみたい。でもそれには炎天下に出かけなければならないので……これが二律背反か。
 はじめまして、もしくはお久しぶりです。今回の更新はサナギトウカがお送りします。

 さて、紹介させていただくのは『チョコレート・アンダーグラウンド』。児童書ではありますが、大人にとっても読み応えのある名作です。以下、その理由を説明しましょう。

0・あらすじ
 時の政権与党〈健康健全党〉により、チョコレート禁止法が施行された。それどころか、党員によりあらゆる娯楽は没収され、残されたのは「健全」な、すなわちなんの面白みもない代用品だけ。
 チョコレートが大好きな少年・ハントリーはこの稀代の悪法に反抗すべく、仲間を集めてチョコレートの密造および密売を企てる。しかし、それを見過ごすチョコレート警察ではない。チョコレートを巡り、体制とレジスタンスの熾烈な戦いがはじまった。

1・【冒頭におけるインパクト】
『とんでもないことがはじまった』という1ページまるまる使った扉からはじまるインパクトはたいしたもの。大多数の人が望んでいないにもかかわらず、推し進められていく権力の抑圧というテーマを、子供にもわかりやすく表現するためにチョコという小道具を用いるという発想力がすさまじいところです。
 実際、「健康健全党」ほど大規模かつ組織的でなくとも、娯楽に理解のない親だの家族だのが強権をふるえば子供のゲーム・マンガ・お菓子・もろもろの物品などは簡単に取り上げられてしまうわけでして。ああ、想像するだに恐ろしい!

2・【見え隠れするオマージュ】
 ちなみにこの禁チョコ法、(あまりに露骨なので言及するのも野暮なのですが)元ネタがありまして、一九二〇年代にアメリカで施行されたアルコールの製造・販売・飲用を禁じる法律、「禁酒法」がそれになります。この法律の成立にまつわる事情はさておくとして、これはきわめて重大な弊害をもたらしました。というのは、法律でアルコールが規制されたことで、その利権が地下組織に流れてしまったからです。これについては、映画『ゴッド・ファーザー』のドン・コルレオーネのモデルにもなった大ギャング、アル・カポネが有名ですね。つまり、チョコレートを密造するハントリー少年の元ネタが彼だ、って話なのです。なにしろ表紙のデザインが「完全に一致」していますから。
 その一方で、作中に登場する健康健全党にも元ネタと思しい組織が存在します。まず、健康健全党は「まったくの善意」で禁チョコ法その他の法律を制定し、それに反する人間を悪として排除する原理主義的な方針で活動しています。こうした健康健全に関する極端な態度は、悪名高いあのナチス・ドイツにも通じるところがあるのです。かの組織が健康を重視した政策を持っていた、というのはあまり知られていないと思います。ただし、それは「不健康」なことや人間を「悪」として排除することで為されるのであって、きわめて人倫にもとるものであったことは明記しておきます。反タバコキャンペーンの延長線上に、ホモセクシャル・遺伝病・精神病患者、ひいてはユダヤ人を法で規制し廃絶するスローガンが生まれると言えばその危険性が伝わるでしょうか。(ところで、こうした事情に詳しい『健康帝国ナチス』という胡乱なタイトルの本があってですね……)。また、健康健全党は十代半ばの少年少女を党の下部組織〈少年団〉として活動させますが、どうみてもヒトラー・ユーゲントです本当にありがとうございます。まあ〈少年団〉については自由参加なのでそこまで一致しているわけではないのですが。それらの点で、禁チョコ法を掲げ、健康という思想を強要する作中の健康健全党はナチスがモデルになっている面があるように思うのです。
 ああ、ついでに謝っておくと、この記事の題名もどっかで見たようなタイトルで申し訳ありませんね。まあ、さすがに二文字目を伏せ字にする度胸はなかったので、それで勘弁してください。……だめ?

3・【いけないことは蜜の味】
 チョコレート・アンダーグラウンドの良さは、なんといっても作中に登場するチョコレートがおいしそうだという点です。作中には様々なチョコレートが登場しますが、登場人物はそのすべてをとてもおいしそうに食べます。その理由はおそらく、当のチョコレート自体がおいしいのはもちろんですが、彼らの置かれている状況によるところも大きいのではないでしょうか。
 誰しも、「してはいけない」と言われたことをしたくなる欲望に覚えがあることでしょうが、作中のチョコレートが食べたいという欲望にも同じことが言えると思います。すなわち、自由にチョコレートが食べられないことだからこそ、チョコレートを食べることができたとき無常の幸福感を味わう。チョコレートを食べるという行為そのものに達成感と背徳感が加わり、最強の美味を生み出しているのです。そのことは描写にもあらわれていて、彼らがチョコレートを食べたいがために払う多大な労力と危険が説得力もたっぷりに書かれているからこそ、読者であるわれわれにチョコレートの実食シーンが臨場感たっぷりに、本当においしそうに見える。これを読めば、あなたもきっとチョコレートが食べたくなるはずです。
 ……もちろん、食後には歯磨きを欠かさずに! 虫歯になっても当方は責任を取りません。悪しからず。

 ではまた。