九月も中旬に差し掛かり、朝夕が随分と凌ぎやすくなって参りました。
 読書の秋に向け、新会員のナリエがお薦めの一冊を紹介させて頂きます。
 前回の担当者が新会員らしからぬクオリティの書評を投稿してくれたおかげで少々プレッシャーを感じております、が、一人くらい足らない子がいた方が愛嬌があって良いでしょう。きっと。

 今回紹介させて頂くのはイタロ・カルヴィーノの『レ・コスミコミケ』です。

【あらすじ】
 わしは憶えとるさ! お前さんたちはだれも知らないさ――Qfwfq爺さんはいつもそんな風に昔語りを始めます。宇宙が誕生する前から生き続けていると豪語して憚らないこの老人、地球が誕生した時のことやら自分が恐竜だった時代のことやら飽きもせずくっちゃべるものの、どこまで信じていいものやら。だって毎回言っていることが違うじゃあないですか! 嘘? 本当? 理科の教科書とは違った世界の歴史を教えてくれる、摩訶不思議な連作短編集です。

1.【想像力=創造力】
 想像力は創造力の源、とはよく言われること。本作の著者、イタロ・カルヴィーノはそれを体現した作家の一人です。魔術師とも評されるカルヴィーノの作風は多岐にわたりますが、彼を有名たらしめているのは何と言ってもSF・幻想小説でしょう。自由な発想から生み出される奇想天外な物語は、本国イタリアのみならず世界中の読者を惹き付けて来ました。
 本作もまさしくそんな魅力を感じられる一冊です。『レ・コスミコミケ』は作品としてはカルヴィーノの代表作『柔かい月』の前身にあたり、主人公(Qfwfq)も共通しています。前身とは言えどもその手腕は流石と言うべきもので、宇宙の起源や太古の地球の姿を「まるでその目で見て来たかのように」Qfwfq爺さんに語らせています。カルヴィーノの筆力を示す証拠として、有り得るはずのない光景がなぜかまざまざと眼裏に浮かぶ、ということが挙げられます。ゼラチン状の地球、色彩の存在しなかった世界に初めて色が溢れてゆくさま、そういった場面を鮮やかに、生き生きと描くことが出来る作家、それがカルヴィーノなのです。
 また、収録作品の一つ『ただ一点に』は「想像力=創造力」を端的に描いた作品として読むことも出来るでしょう。まだ宇宙に開けた空間がなく、人々がひとつの点に身を寄せ合って暮らしていた時代。Qfwfq爺さん曰く、彼らのある想像が切っ掛けで宇宙は膨張を始め、星々の存在するスペースを造り上げたのだとか。鍵となるのは「スパゲッティ」(「???」と感じた方は是非手に取ってご確認を!)。

2.【SF? それともファンタジー?】
 前回から引き継いだキーワードになります。
 『レ・コスミコミケ』の多くの作品は宇宙、若しくは宇宙が成立する以前の「無」の空間を舞台にしています。宇宙については今もって謎が多く、その起源についても諸説あることは皆さまご存知でしょう。実は本作の世界観もまったくの法螺というわけではなく、そうした実在の理論に基づいて展開されています。たとえば『終わりのないゲーム』では「定常宇宙論(作中では「連続状態説」)」が採用されており、これはビッグバンと相対する理論として知られています。王道から少し外れたところを突いて来る辺りが小憎らしいですね。
 しかしそれをガチガチのSFにしてしまわないところがカルヴィーノ。彼はQfwfqたちに水素原子を使った遊びをさせるのです。湾曲した宇宙空間に原子を転がし距離を競う、ぶつかった原子はガスと化して青く燃え上がる……こうしたゲームを二億五千万年かけて行う宇宙の少年たち、この情景はまさしくファンタジックと言うしかありません。
 また、月と地球とが梯子で行き来出来るほどに近かった時代を舞台にした『月の距離』では、月の引力に引き付けられて海の生物たちが海上へ浮き上がり、空中を舞い飛ぶさまが描かれています。魚やくらげ、珊瑚礁までもが月光を受けて光りながら銀色の海の上を漂っている場面は、この作中で最も幻想的で優美であると言えるでしょう。

3.【現実との接点】
 現実離れした読み味が心地好いカルヴィーノ作品ですが、彼はリアリズム小説出身という経歴ゆえか、実在の事件や固有名詞を作中で用いることも少なくありません。オーストラリアの首都「キャンベラ」だのスペインのサッカーチーム「レアル・マドリッド」だの、まったくの空想だとばかり思っていた話の中に身近な話題が登場することで、「ん?」とわたしたちの頁を捲る手は一旦止められてしまいます。このリアリティがいっそうシュールで奇妙な味わいを作品に付与していることは言うまでもありません。
 時代や空間を超越したこの手法は他の作品にも見られ、『見えない都市』という作品には日本の「大阪」「京都」が登場します。舞台設定は13世紀だと言うのに(!)、この自由っぷりには最早敬意を表さずにはいられません。こちらも素晴らしい作品ですので、是非とも合わせて読んで頂きたいところです。

 以上、『レ・コスミコミケ』の紹介を終わります。カルヴィーノは優れた作品を多く残していますので、また機会があれば別の作品についても触れさせて頂きたいところです。
 更新が遅れてしまい、次回の担当者にはご迷惑をお掛けします。足らない子の尻拭いを、どうぞよろしくお願い致します。