あなたは「宝物」と呼べるような本を持っているだろうか。

「気分が落ち込んだときに読むと元気になれる」
「面白くて何度も読み返してしまう」
「この本のおかげで人生が変わった」
「この本を読んで新しい世界を知ることが出来た」

などなど。
その本を宝物とする理由は色々あるだろうが、一冊だけでいい。
もし、あなたが宝物と呼べる本を持っていたら、あなたは幸せだ。

そのような本に出会うことができる人は、そう多くはないのだから。
そして何よりも、その「宝物」を他人に語っているときのあなたの顔は、おそらくとても輝いているだろうから。

ミステリ研究会という読書系サークルに属していると、そういった宝物を持っている人によく出会う。
その宝物を語るときの顔がまた、いい。
話を聞き、顔を見ているとこちらまでもが楽しくなってくる。

 

今回のリレーブログでは既会員の諸氏に、そういった宝物のような一冊を語ってもらえればと思う。
その本に対する熱い想いをぶつけてほしい。
また、宝物の一冊が無い人には、大学生活のなかで本との運命的な出会いを果たしてほしいとも思っている。
大学卒業後にそういった出会いが無いとも限らないが、今よりも本を読む時間はずっと限られてくるだろう。
だからこそ大学生活中、特に夏季休暇など時間のあるときに本をたくさん読んでほしい。

とは言っても何を読んでいいのかわからないという人もいるだろう。
そんなあなたには乱読がオススメだ。
手当たり次第、興味が湧いた本をかたっぱしから読んでみる。これが乱読だ。
宝物と呼べるような本と出会えなくても、この方法でたくさんの本を読むことは貴重な経験になるだろう。

新書でも、小説でも、専門書でもいい。様々な分野に触れて、多種多様な知識に触れることは決して無駄ではないはずだ。
本を読んだ感想が「面白かった」「つまらなかった」だけでもいいだろう。
ぜひオススメしたい。

 

さて、ずいぶんと前置きが長くなってしまった。
本題である本紹介へと移ろう。

私が紹介する作品は、永沢光雄『すべて世は事もなし』。

 

①日常の中の非日常

前回から引き継いだテーマがこれだ。
この作品は短編集なのだが、日常のなかの非日常を扱った作品がいくつかある。

・クーデターが成功した日本の話である『恋はどしゃぶり』
・村の暗部を抉る小説家を描いた『村の小説家』

などなど、どれもこれもあなたを独特の永沢ワールドへといざなってくれる

②心を揺さぶられる寂しさ

永沢光雄という4文字を見た瞬間に思い浮かぶ言葉はこれだ。
彼の作品には、人間の寂しさを感じさせられるものが多い。

・性欲に溺れる男が出てくる劇中作『虹色の魚』
・人の死を悲しむことができない男の物語『「メリー・クリスマス」』

短編集に出てくる主人公たちの多くは、妻に逃げられたり、浮気をされたり、セックスから逃れられなかったりする。
他の登場人物も、同性愛者だったり、精神的に病んでいたり、SM趣味があったり、人の死を嘆くことができない人間だったり……。

これは、おそらく永沢光雄という人間自体が持っている寂しさなのだろう。
彼は酒浸りで、酔わなければ原稿を書けないアルコール中毒だった。
さらに若くして癌を患い、声帯を切除。遂には2006年に47歳の若さで亡くなられてしまった。

声帯を手術してからの闘病記は『声をなくして』というエッセイのなかで触れられているが、その本も読んでいて心が締め付けられるほど辛く、寂しい内容だ。
興味があれば、そちらもぜひ読んでほしい。
寂しさ、辛さ、そして苦しさのなかにある暖かさを実感することができる名作だ。
きっと、あなたも心を揺さぶられるだろう。

③描かれているリアルな人間

人間の寂しさだけでなく、どうしようもなさ、悲しさ、暖かさ。
そういった寂しさだけではないリアルな人間像が描かれているのも、この短編集の特徴だ。

・同性愛者の少女が上京する『自立』
・ホームレスの女性とOLの触れ合いを描く『まゆ、と、まや』
・SM趣味の歯医者に話を聞く『縛られた男』
・過去を追憶する表題作『すべて世は事もなし』

これは永沢が元々インタビュアーであったことも影響しているだろう。
アダルト雑誌で連載していたコラムを文庫化した『AV女優』は永沢を有名にさせた作品だが、これもインタビュー集だ。
AV女優に取材をし、話を聞く。そのような内容が多くの人に評価された。

この本に書かれているのは、複雑な過去を背負った「ふつうの女の子」たちだ。
おそらくは職業が何であったとしても、永沢は「ふつうの女の子」たちを表現できたのではないか。
そんな気がする。

そういったインタビューのなかで、永沢は人間が持つ様々な感情や、側面を知ることができたのだろう。
おかげで、この『すべて世は事もなし』は人間を描くことができた。
そう思っている。

 

他にも、私が初めて永沢作品に触れたときのこと。永沢光雄と野球の関係についても書きたいのだが、既に2000文字を超えてしまっている。
冒頭で偉そうなことを長々と書いてしまったためだろう。
かっこつけてそんなことを語れる身分でもないのに、気負った結果あんなものを書いてしまった。反省しなければならない。

遅れてしまったことをお詫びしながら、次の人へとバトンを渡したいと思う。
では、次の方よろしくお願いします。