こんばんは。サークル最年長、鹿野です。
先日行われた文学フリマ、FSMではミステリー研究会と幻想文学研究会が参加いたしました。
そこで販売した二冊の機関誌、おかげさまで数多くの方に買っていただきました。
本当にありがとうございました。

そして、今年FSMが参加する即売会は冬コミックマーケットを残すのみ。
我々はそこで、SF研究会として「パンクSF特集」をテーマに機関誌「ASOV」を出します。
編集長が並々ならぬ熱意でもって製作している一冊、コミケにいらっしゃる際はぜひ私達のブースにお立ち寄りいただけたら
幸いです。

さて。前置きはこの辺にして、本の紹介に入りましょう。
今回私が紹介する作品は、SFの巨匠アーサー・C・クラークの『都市と星』(早川書房)。
ではまず、あらすじを。

「遠い未来の世界。宇宙進出に失敗し、地球に篭もらざるを得なくなった人類は、全てが機械によって管理される、
不老不死の都市ダイアスパーを建設。都市全てをドーム状の壁で囲い、未来永劫そこで思想と空想に浸り続けることを選択した。
しかし、そこにある異分子が生まれる。彼の名はアルヴィン。彼は空想に浸ることよりむしろ「外」に出ることを望んだ。
都市の住人全てが本能的に嫌う「外」への興味を抱いた彼が生み出した、壮大な物語」

まま、こんな感じです。
それではキーワードに行きましょう。

1.距離 ※前回からの引き継ぎです。
ともすればネタバレになってしまうので、言い方が非常に難しいのですが……作品の中盤で、主人公アルヴィンはある所へ行く決心をします。
それは主人公や、彼と同じ都市に住む住人達にとってはまさしく「信じられないこと」「途方も無い冒険」なのですが、
その遥か昔には「誰もが日常的にやっていたこと」でした。
昔の人にとっては日常的であるがゆえにあっという間の時間や距離が、その時のアルヴィンにとっては
果てしなく長いものに感じられてしまいます。

皆さんにも、このアルヴィンと似たような経験はないでしょうか?
例えば初めて一人で電車に乗った時、食事を作った時、そして学校に行った時。

今では特に何でもないようにしていることで、周りも同じようになんでもないようにしていること。
それがあの時、あの一回だけはジェットコースターに乗るのと同じくらいドキドキしたんじゃないかなと思います。

そんな、今では忘れてしまったあの感覚。ちょっとした距離が果てしなく思えたあの時間を
再体験することが出来るこの場面。個人的には本作で最もお気に入りの部分です。

2.魅力的な世界
本作の舞台である、都市ダイアスパー。
主人公アルヴィンはそこから外に出たいと思い、物語は始まるのですが……
言っちゃなんですが、正直私はこの都市から外に出ようだなんて絶対に考えません。

まず「不老不死システム」が素晴らしい。
この都市の住人は、誰も年をとりません。
青年期の姿のまま千年近く生き続け、脳の中身が様々なもので満ち満ちた辺りで「記憶の選別」、つまり
「自分にとって取っておきたい記憶」のみを脳の中に残し、巨大なデータバンクである「創造の舘」にて、長い長い眠りにつきます。
そして何万年か後、再び全く変わらない青年期の姿で「創造の舘」から出てきます。
その時前世の記憶は失われているのですが、時間が経つにつれて自分が選択した記憶が蘇ってくるのです。

つまり、この都市の住人は基本的に自分にとって都合のいい、価値があると思う記憶だけしか持っていないんです。
なんと羨ましい!

そして、更に魅力的なのが「サーガ」なる娯楽。
これは最近ライトノベルなどで流行っている没入型ゲームのようなものなのですが、そのバリエーションがとにかく凄い。
よくある冒険譚のようなものから、果てしない数学や哲学の問いへ挑むようなものまで。
単なるゲームに収まらない、無限の経験への入口がそこにあるのです。
しかも、常にドンドンと新しいサーガが作られているので、全て遊びつくすということが絶対にありません。
よくある「あの映画やゲーム、知らなかった状態でまたやりたいな」なんて思ったら
それこそ「不老不死システム」でそこの記憶を無くせばいいのです。
本当に羨ましい。

勿論、この都市の魅力はこれだけに収まりません。
クラークが全力で創りだした都市ダイアスパー。
ぜひ実際に読んでみて確かめて見てください。

3.壮大な謎
本作の世界は、遥か未来。舞台は都市。
では、それまでの間に何があったのか。そして、この都市の外はどうなっているのか。
なぜ、人々は都市の中に押し込められて住んでいるのか。

なんと、その真実ははっきりとわかっていないのです。
何があったか? 多分宇宙進出の中で何かあったんじゃないかな。
都市の外?  全部砂漠だよ砂漠。
なぜ人々が都市の中に?  考えたくない。本能的に、考えられない。

そんなわけで、都市の住人の殆どはこの謎に挑むことが出来ないのです。
主人公、アルヴィンを除いて。
彼は異常とさえ感じてしまう情熱でもって、都市の住人や、更に言えば読者さえ
振り切って前へ前へ。外へ外へと進んでいきます。

しかしそんな異常性でもってでしか解決出来なかったであろうと読了後感じてしまう、大きすぎる謎。
そして、後半に登場する変てこな登場人物。

謎と主人公がドンドンと物語を大きくしていくこの感覚、これこそが本作の醍醐味なのです。

さて。どうにかこうにかこの辺で。
本作は見所や面白さに満ち満ちた作品で、何度読んでも面白く、飽きません。
そして、読んだ後人と語り合ってみたい作品でもあります。
外に出るのが億劫なこの時期。
クリスマスだ忘年会だと浮かれる世間を他所に、一人濃密な世界に浸りきってみてみてはどうでしょうか。