こんにちは。いよいよ、今年も残すところあとわずかです。
月日が経つのは早いもので、新会員として春に入会した私にも、リレーブログの順番が回ってまいりました。

何かと忙しい時期ですが、年の瀬にふさわしく「これまでとこれからの自分」について、考えてみる機となりそうな本を、今回紹介しようと思います。

 

『夜また夜の深い夜』

作者の桐野夏生さんは、1993年に『顔に降りかかる雨』で江戸川乱歩賞、
1998年には、映画化もされた『OUT』で日本推理作家協会賞を受賞。
人間の醜さや心の裏表を鋭く描き、最後まで読み手を休ませない、サスペンス展開に定評のある方です。

本作は2014年10月に発行されました。桐野作品の中では「鋭さにかける」「丸い」という声や、
「読みやすい」「今までにないタイプ」という感想を耳にしています。さて、どうでしょうか。

 

(0)あらすじ

主人公のマイコは19歳。国籍もなく、父親が誰かも知らない。
謎だらけで整形を繰り返す母親と一緒に、世界各地を転々と移動する生涯を送ってきた。
しかし、ある人物との出会いを契機に、他人と隔絶された環境から少しずつ抜け出し、
同時に真実を知っていくことになる。

 

(1)信じるもの

マイコには最初、信じられるものがないと言えます。唯一「他人」でない人間である母親は隠し事をしているし、マイコ自身も従っていた母親に疑いを持つようになっています。
しかし、「これでよい」と従ってきた自分自身に疑問をいだくことが、次第に自分を信じることへと繋がってきます。母との別れの後、様々な出来事を通して意思を強めていくマイコに、ハラハラしながらも、同時に勇気づけられます。

 

(2)大切なもの

マイコはアナとエリスに助けられ、仲間になりますが、そこで初めて、普通の女の子のようにお洒落やおしゃべりといった楽しみを知り、同じ年頃の彼女たちの優しさに触れます。また、彼女たちの「自分と似た境遇」と、それぞれが抱えた「誰にも理解されない過去」の間で、踏み込んでみたり、どうにもならない壁を感じたりして悩むのです。

今まで唯一の絶対の繋がりであった母、母との生活から未知の世界へ導いてくれた男、絶望を乗り越え身を寄せ合い生き抜いている少女たち。誰を信じるべきなのか。誰と共に生きるべきなのか。誰が正しいこと、本当のことを言っているのか。

桐野さんの作品の良いところは、「自分だったらどうするか」という見当付けができないようことごとく砕いていくところです。読んでいる最中は、どうしたらよいか分からず、人間不信になりそうなほどです。

しかし、主人公は必ず、勇ましいほどに自分で決断を下していきます。

 

(3)運命

前回から引き継いだキーワードです。

自分の下した決断や、選んだ道がいつも最善の結果をもたらすとは限りません。ましてや、マイコは決断する前、生まれた瞬間からおよそ普通とはかけ離れた境遇にありました。
ゲームであれば、セーブやリセット機能ですべての選択肢を確認することもできますが、人生はそうではありません。あの時あの道を選んだたった一つの結果が今というのなら、それを自分の「運命」として受け入れることができるでしょうか。
ある一つのサバイバルを経験したラストシーンのマイコの台詞には、その答えが含まれています。

はじめに「普通とかけはなれた」と書きましたが、生きる人、当人にとっては何もかもただの普通ではないですし、死ぬまでサバイバルは続きます。自分で下す決断や選択には常に不安と責任が伴いますし、何をどうしていいか分からなくなることもあるでしょう。そんなときは、自分を助けてくれた人々にたずねてみます。そして、最後には必ず自分で考えて決断します。
この作品はその大切さ、面白さ、残酷さを教えてくれます。

同じく、出生の謎や母探しに通じる作品で「I’m sorry, mama.」がありますが、こちらは桐野ワールドの鋭さ全開です。
あわせて読むのも面白いかと思います。

 

それでは、どうもここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。
みまさま、良いお年をお迎えください。

ではまた来年、次回の紹介者さん、よろしくお願いいたします。