どうにも最近はドンパチばかりの冒険小説ばかり読んでいるせいか、芥川のあとに何を引き継げばいいのか迷いに迷いに迷った。少女と言われても、此処最近読んでいるのはオッサンが殴り合うのばかり。風景描写と言っても、某国の某所で如何ように死闘を繰り広げるかとかそんなのばかり。実に迷った。
 それからいろいろあって本棚に相談してみた。すると最終的に彼が出して寄越したのは、敬愛する神林長平御大の『膚の下』だった。火星三部作の完結編にして、神林作品の中でも最高傑作との呼び声も高い本作。いまさら語るまでもないが、ここは一つ語らせてほしい。

われらはおまえたちを創った
おまえたちはなにを創るのか

 このエピグラフから始まる本作は、火星三部作の第一弾にして神林長平初の長編小説である『あなたの魂に安らぎあれ』の前日譚である。ゆえに、もちろん『膚の下』だけでもじゅうぶん面白いのだが、まずは『あなたの魂に安らぎあれ』を読んでからこちらを読んでほしい。そのほうが、感動が二割、三割……いやもっと増し増しだ。
 主人公の慧慈は、アートルーパーと呼ばれる人造人間。彼らアートルーパーの任務は、地球人が火星で冬眠する間、地球の復興作業にあたる機械人たちを監視すること。人間でも機械でもない慧慈は、軍での訓練、地球残留派との交戦、少女や部下との出会いを経て成長していく……。

・少女
 前回より引き継いだキーワードがこれだ。慧慈とある少女との出逢いが、この物語の根幹に関わると言ってもいい。人間たちは機械人を見下し、またアートルーパーも人造人間であると見下す。あくまでも彼らは人間の被造物であり、それ以上でもそれ以下でもない。膚の下に流れるのは、同じ赤い血であるにも関わらず……。
 そんな苦悩を抱く慧慈は、火星に冬眠予定のある少女と友情を育む。人間たちは、火星で長い眠りに着く。そのあいだ、アートルーパーたちは人間の代役、機械人の監視役として地球に残る。もちろん人間が地球へと戻ってきたころには、もう慧慈たちは死んでしまっている。
 そこで慧慈は少女とある約束をする。日記をつけ、それを残すこと。そして少女が地球へと戻ってきた時、彼女はそれを読むことで慧慈を思い起こすことだ。アートルーパーは人間のように遺伝子を残すことは出来ない。しかし、物語ることは出来る。神林長平らしい切り口で『創造』というキーワードが少女との関係に如実に表されている。

・成長物語
 本作は、徹底して主人公慧慈の成長物語である。訓練時代の教官達と過ごした日々に始まり、実際の戦場で残留派のテロリストと相対し戦場を経験、そして機械人と出会い、仲間たちと出会い……。やがて最後には、地球を託された者として慧慈の決断が迫られる。
「われらはおまえたちを創った おまえたちはなにを創るのか」
 まさしく冒頭のエピグラフが示す通り、人間によって作られたアートルーパーは何を生み出すようになるのか。物語の根幹はそこにある。
 これは成長物語であると同時、かつまた一人の兵士が創造主となる物語。一種の聖書とも言うべき作品である。

・分厚い!
 文庫本でおよそ600ページ近いもので、しかも上下巻! 分厚い!
 しかし、それでも飽きないのが『膚の下』だ。前述の通り、この小説は言わば聖書である。人間という創造主に生み出された慧慈は、成長し、彼もまた創造するようになる。それまでの長い旅路を追う聖書だ。
 火星三部作の『あなたの魂に安らぎあれ』、『帝王の殻』を含めれば更に長い旅路となるが、しかしその先に待つのは他には代えがたい感動だ。現に私も読後、涙をこらえるような思いだった。
 火星三部作という壮大な世界の、更にその下敷きを創造した一人の人造人間の物語。読み応えは抜群。神林御大の最高傑作に違いはない。