「フェチズム」にふさわしい本とは?
江戸川乱歩の『人間椅子』だと今日は答えてみます。
江戸川乱歩といえば大正・昭和に活躍した小説家。代表作『怪人二十面相』をはじめとして、数々の推理小説を生み出した作家です。日本のミステリー小説を語るには決して外せない人物でしょう。
そんな江戸川乱歩、実は怪奇幻想小説の書き手としても一流なのです。今回紹介する『人間椅子』には、そうした物語だけが8本収録されています。その中のいくつかを3つのキーワードでまとめて書き記します。

・フェチズム
フェチズム(フェティシズムの略)とは、異性の衣服や身体の一部などに価値を見出し執着することです。「人間椅子」では自作の椅子の中に潜み、腰掛けた女の肉体を皮越しに感じ、密かに恋い焦がれたと告白する男が出てきます。また、「押絵と旅する男」では押絵の女に一目ぼれした男が、「鏡地獄」ではレンズと鏡を駆使し不可思議な世界を作り出す男のことが描かれています。他人には無価値なものに心を奪われ、理解できない妄執を抱く。彼らは欲望に呑まれていながら純粋で美しく感じます。

・過去語り
この本では、登場人物がかつて体験した事件を語りだすという形式がほとんどの作品で使われています。彼らの昔話はどれも信じがたく、そんな訳ないだろうと思わず言いたくなってしまいます。事実彼らの言葉を裏付ける証拠はありません。それでも納得させてしまう不思議な説得力が彼らの言葉にはあります。

・奇抜な発想
妻に失恋し自殺。眠りながらの強盗殺人。自宅の押入れで呼吸困難。作品全てが意外性に満ちています。死後数十年経っても色あせない江戸川乱歩の独創性がこの一冊に詰まっています。

『人間椅子 江戸川乱歩ベストセレクション(1)』(江戸川乱歩著 角川ホラー文庫)
収録作品:人間椅子、目羅博士の不思議な犯罪、断崖、妻に失恋した男、お勢登場、二癈人、鏡地獄、押絵と旅する男