リレーブログ二回目「犬探しなら、よかったのに」(米澤穂信『犬はどこだ』)担当:優木

まだ六月にもなっていないのに、こうも暑いとたまりません。
冬は着こめば暖かいですが、夏は裸でも暑い理不尽な季節でして、私はキライです。

あ、でもエアコンは好きですよ。

……前回のリレーブログでは冒頭にもっと気の利いた事を書いていたように思うのですが、慣れなのか季節柄鬱々としてしまっているのか分かりませんがこの程度で。

言い訳はともかく、ブログ投稿をここまで引きずってしまい、申し訳ありませんでした。

こんにちは、またはこんばんは。
今年も始まりましたリレーブログ、申し遅れました二回目の担当を務めさせていただきます優木です。

今回私がお薦めする本は『犬はどこだ』。
米澤穂信さんの第六作目であり、2006年版「このミステリーがすごい!」にて初めてベストテン入りの八位を記録した出世作でもあります。2005年に東京創元社より刊行されました。

●あらすじ

東京の銀行員であった主人公、紺屋長一郎は一身上の都合から途中退職し、地元の八保市で犬捜し専門の調査事務所〈紺屋S&R〉を開業する。

しかし舞い込んできた依頼は失踪「人」捜し、行方知れずとなった孫娘を捜索してほしいという内容だった。専門外ではあったが条件面で折り合いが付いてしまったので受諾することに。

翌日には若い男が訪れた。半田平吉、通称ハンペーは紺屋の高校時代の後輩であり、探偵に憧れていて雇ってもらいたいという。その際に古文書の由来を調査してほしいという依頼(これも専門外)者が現れて、依頼と助手の雇用がなし崩し的に決まってしまったのであった。

二人は手分けして調査していくが、思わぬ形でこの二つの依頼が交錯していき――。

【1】過去と現在

前回のリレーブログから引き継いだキーワードとなります。

〈紺屋S&R〉が受けた二つの依頼、内容は両者とも過去のことを探っていくものでした。
長一郎は東京で失踪した佐久良桐子の行方捜しのため、インターネットのチャットで知り合った友人〈GEN〉の協力のもと、桐子の失踪以前にアップしていたブログ日記のログを調査します。
一方ハンペーは谷中民の誇りをかけた古文書の価値を明らかにするために、郷土史の専門家を訪ねたり、地元の図書館で資料を探したりと地道に調査を進めていきます。

そして古文書を皮切りに谷中の歴史――過去が解明されていくに従って、佐久良桐子の行動――現在と妙にリンクし、いわゆる歴史ミステリのような概観が見て取れるようになっていきます。しかしこの歴史物が、米澤穂信(敬称略)の原点である本格と見事にマッチして、本作の重要なトリックを支えることができています。

余談ですが、米澤穂信のミステリにはとにかく地方都市的、伝統文化の深く根付いた集落を舞台とした話が多いです。これは彼が岐阜県出身で、飛騨の高山に囲まれて固有の文化を残す場所で育ってきた経験によるものなのでしょう。
地方都市の舞台設定はまさに彼の十八番であり、また魅力の一つでもあります。

【2】多様な叙述

本作はまた、多数の人物による一人称で成立していることが一つの特徴であるように思われます。
基本的には〈紺屋S&R〉のメンバーである長一郎とハンペーの視点が交互に読者に提供されていきますが、長一郎の情報として、〈GEN〉のログ調査による私見や、桐子の日記なども付け足されてゆきます。これによって長一郎とハンペーお互いの知らない情報が一足早く読者に手に入ることで、読者は探偵役より一段上の推理を組み立てることができるという優越感を手にすることができます。これは推理小説においてはなかなか得られない快感ではないでしょうか。

米澤はこうした私立探偵小説界に新しい文体を誕生させながら、さらにこの文体を逆手に取って読者に挑戦を挑んでいるのですから、そのポテンシャルの計り知れなさといったら、これからの活躍にも期待できます。

【3】後味の悪さ

米澤穂信といえば、最後の最後でとんでもない事実を提示して、奇妙な読後感を読者に与えるのが特徴的な作家ですが、本作「犬はどこだ」は特にそれを強調しています。しかもこれまでの作品とはまた一味違った後味を出しており、あんまり言うとネタバレになるので控えますが、例を挙げるならば米澤さんの第三作「さよなら妖精」が悲しい読後感なら、「犬はどこだ」は恐怖の読後感です。これは言っても大丈夫そうなので言いますが、長一郎がこの後味の悪さを自覚しているあたりが、より一層この読後感を引き立てているものと思われます。

この後味の悪さというもの、あまり良い印象はないかもしれませんがこれがちょっとクセ者でして、とにかく強烈なインパクトを読者に与えます。この衝撃、「もう読みたくないよ……」と最初のうちは思うのですが、後々まで余韻が続いていつしか「どんなだっけ、気になってきた!」と再びページを捲らせるという中毒性を兼ね備えているのです!

そして二度目の読後感に鬱々とさせられるのです。

                                                

といった感じで米澤穂信「犬はどこだ」の紹介を終わりにしたいと思います。

そして「犬はどこだ」、今回紹介したようにとてもオススメなのですが、米澤穂信は初期作から最新作まで全く質の落ちていない作品を書き続けていますので、実は全てオススメなのです!
その中でも特に推したいのは〈古典部シリーズ〉の原点である「氷菓」、そしてそのシリーズから派生し、〈ベルーフシリーズ〉を誕生させた「さよなら妖精」、最後にノンシリーズではありますが「犬はどこだ」以後さらにビターテイストになった第二次米澤小説の華形「儚い羊たちの祝宴」の三冊は読んでおいて損はないと思います。

私自身、米澤穂信の大ファンですのでかなりベタ褒めしているように後々から気付き始めたのですが、そこはまあ大目に見てください。

では次回の紹介者の方、遅くなりましたがよろしくお願いします。

リレーブログ2015年度第一回 「警察小説にして、ロボットSF」(月村了衛『機龍警察』)担当:垣野

今年度より、SF研の会長となりました、垣野と申します。新歓読書会も無事終了し、新たな気持ちでこちらのリレーブログも進めて行きたいと考えております。
さて、昨年度より開始しましたリレーブログ企画、キーワードを引き継ぎながら会員がおすすめの本を紹介していくというもの。本年度は、さらに新たな縛りを加えて進めていきたいと考えています。して、新たな縛りと言いますと、
”前任者が引き継いだキーワードを引き継いではならない”
というものです。
すなわち、引き継げるキーワードは二つに一つということになります。私以降、どのようなリレーが続いていくのか……。乞うご期待ください。

 

さて、そのような新体制で始まった今年度のリレーブログ企画。その第一弾を飾るのは、月村了衛の『機龍警察』である。
本作は、早川書房より出版されている”至近未来”を描いた警察小説シリーズ。そして、機甲兵装と呼ばれるみんな大好き人型ロボットが活躍する娯楽作品だ。
舞台は、そう遠くない未来――至近未来の日本。大量破壊兵器の衰退に伴い、CQBに特化した近接戦闘兵器体系・機甲兵装が台頭した世界。
しかし機甲兵装の普及は、同時にそれによる犯罪を引き起こした。狛江事件と呼ばれる機甲兵装の用いられた殺人事件を機に、警視庁は、警察のセクショナリズムを越えた新たな部署、特捜部を設立した。
そんな特捜部に与えられたのは、三機の最新型機甲兵装、龍機兵(ドラグーン)。そして、その搭乗要員である三人の傭兵たち……。
特捜部に立ちはだかる、謎の〈敵〉。日本を舞台に巻き起こる、テロリズム。ロボットバトル。手に汗握るエンターテイメント作品である。
と、このようなあらすじを聞けば、あの台詞を思い出すだろう。

「機甲兵装」それは軍事用に開発された近接戦闘兵器体系の総称である。軍事分野に広く普及したが、機甲兵装による犯罪も急増。警視庁は、特捜部を新設してこれに対抗した。通称、機龍警察の誕生である。

警察×ロボットと言えば、やはりパトレイバーであろう。ちょっとやってみたかったのだ。このナレーション。
さて。それではそんな本作を、以下の三つのキーワードで紹介していきたいと思う。
1、影が動く
前回より引き継いだキーワードがこれだ。
本作を、単純な警察小説。あるいはロボットSFだけではなく、「警察小説であり、ロボットSF小説」たらしめているのは、まさしく暗躍する「影」の存在である。
機龍警察シリーズでは、一作ごとに姿、ライザ、ユーリ。また特捜部の刑事たちの過去にクローズアップし、物語が進んでいく。しかし、シリーズ通して変わらないのは、〈敵〉の存在である。
あらゆるテロ組織、マフィア、傭兵、警察……と、組織の裏に暗躍する謎の存在。シリーズは、キャラクターの物語だけでなく、そんな影を追う物語でもある。
事件の裏に潜む〈敵〉の存在。それを追う物語に、引き込まれること違いないだろう。

2、過去と現在。
前述の通り、本シリーズは登場人物の過去を掘り下げつつ、様々な事件に立ち向かっていく。その上で欠かせないのは、やはり登場人物の過去。そして現在だ。
主要登場人物であり、最も異色な存在である三人の傭兵。その経歴だけでも、彼らのキャラクター性の強さが窺い知れる。
様々な戦場を生き延びてきたプロの傭兵にして、自他ともに認めるコーヒー狂。姿俊之。
元モスクワ民警所属の刑事にして、アジアの裏社会に精通する指名手配犯。ユーリ・オズノフ。
元IRF(アイルランド自由軍)所属のテロリスト、ライザ・ラードナー。
また、特捜部所属の他の人物も、様々な過去と今を持っている。テロにより家族を亡くした技術班主任。外務省から警視庁という異色の経歴を持つ特捜部長。荒れた学生時代を過ごした熱血刑事、などなど……。
様々な「過去」と「現在」とが交錯する物語は、ミステリとSF要素に更なる重厚感を与えている。

3、”分かっている”演出
お待たせしました。ロボットでございます。
警視庁特捜部に与えられた三機の機甲兵装、「フィアボルグ」、「バーゲスト」、「バンシー」。その三機の格好良さたるや、もう言葉では語り尽くせない。いや、小説なのだが。取り敢えず、是非とも本作を読んで、その格好良さに痺れて貰いたい。
しかし、敢えて恐れながらも此処に書かせて頂くのなら、龍機兵の格好良さは、やはり機体に備えられた機構(ギミック)にある。そして、それを操る搭乗要員三人の戦闘スタイルにも現れているだろう。
龍機兵にのみ備えられたシステム。それこそが、アグリメント・モード、DRAG-ON。ブレイン・マシン・インターフェイスにより、龍機兵と搭乗者を完全に同調させる機能だ。
脳波コントロール機といえば、多くのロボットアニメで見たことがあるという方もいるだろう。しかし、何にしてもこれは、システムの使い方がうまい。なんとも”分かっている”演出なのだ。
他にもライザが駆るバンシーの装備換装や、姿が駆るフィアボルグのダガーによる近接格闘戦。などなど、堪らない展開が目白押しである。
そういえば、月村氏は脚本畑の出身である。そのようなことも、男を熱く滾らせてくれる演出の一因なのかもしれない。

警察・ミステリ小説が読みたいという方にも。ハードなリアルロボット物が読みたいという方にもおすすめ出来る一冊だ。是非とも、熱く滾るリアルロボット物が読みたいという方にはおすすめしたい。攻殻機動隊やパトレイバーが好きなあなたは、きっと気に入るはずだ。

お茶でも飲んで、一息ついて

こんにちは、ブログ担当の優木です。

新歓活動が終わり、今年度第一回読書会が終わり、サークル更新……は進行中ですが、大変ながらも充実した1ヶ月で、今年も沢山の新入生が興味を持ってFSMに来てくれました。
そして読書会、予定が合わずということでなかなか人を集められず残念でしたが、新入生も積極的に発言をしてくれて、とても有意義な読書会を開催することができました。次回から連絡はもっと早くすることにします、ごめんなさい。

ということで次回の読書会の連絡、します。
課題本は森博嗣「すべてがFになる」(講談社)日程は5月28日を予定しています。
本作といえば昨年実写ドラマ化されたり、今年ではTVアニメ放送予定だったりと、作品をご存じの方は多いのではないでしょうか。原作はまだという方も、トライしてみましょう。

次は別の話で、今月からまたリレーブログ、やります。
月に2人の会員が自分のお薦めしたい本を、前回紹介した人のからキーワードを1つ受け継いで、3つのキーワードに関連付けて紹介していきます。お楽しみに。

あとは5月にミステリ研が主催する「本の森」展ですが……こちらはまだまだ企画考案中ということで、あんまりいうことないんですよね。といっても期日が迫ってきているので悠長にかまえてもいられず……あー。

――などと一息つく間もなく、やらねばならぬことが次から次へと湧き出てきます。以上でこのサークルに興味が湧いていただけた方、ぜひBOX4551におこしください、我々東洋FMSは常に会員を募集しています。

それでは。