リレーブログ2016年度第10回『膚の下』(神林長平著)担当:垣野

 どうにも最近はドンパチばかりの冒険小説ばかり読んでいるせいか、芥川のあとに何を引き継げばいいのか迷いに迷いに迷った。少女と言われても、此処最近読んでいるのはオッサンが殴り合うのばかり。風景描写と言っても、某国の某所で如何ように死闘を繰り広げるかとかそんなのばかり。実に迷った。
 それからいろいろあって本棚に相談してみた。すると最終的に彼が出して寄越したのは、敬愛する神林長平御大の『膚の下』だった。火星三部作の完結編にして、神林作品の中でも最高傑作との呼び声も高い本作。いまさら語るまでもないが、ここは一つ語らせてほしい。

われらはおまえたちを創った
おまえたちはなにを創るのか

 このエピグラフから始まる本作は、火星三部作の第一弾にして神林長平初の長編小説である『あなたの魂に安らぎあれ』の前日譚である。ゆえに、もちろん『膚の下』だけでもじゅうぶん面白いのだが、まずは『あなたの魂に安らぎあれ』を読んでからこちらを読んでほしい。そのほうが、感動が二割、三割……いやもっと増し増しだ。
 主人公の慧慈は、アートルーパーと呼ばれる人造人間。彼らアートルーパーの任務は、地球人が火星で冬眠する間、地球の復興作業にあたる機械人たちを監視すること。人間でも機械でもない慧慈は、軍での訓練、地球残留派との交戦、少女や部下との出会いを経て成長していく……。

・少女
 前回より引き継いだキーワードがこれだ。慧慈とある少女との出逢いが、この物語の根幹に関わると言ってもいい。人間たちは機械人を見下し、またアートルーパーも人造人間であると見下す。あくまでも彼らは人間の被造物であり、それ以上でもそれ以下でもない。膚の下に流れるのは、同じ赤い血であるにも関わらず……。
 そんな苦悩を抱く慧慈は、火星に冬眠予定のある少女と友情を育む。人間たちは、火星で長い眠りに着く。そのあいだ、アートルーパーたちは人間の代役、機械人の監視役として地球に残る。もちろん人間が地球へと戻ってきたころには、もう慧慈たちは死んでしまっている。
 そこで慧慈は少女とある約束をする。日記をつけ、それを残すこと。そして少女が地球へと戻ってきた時、彼女はそれを読むことで慧慈を思い起こすことだ。アートルーパーは人間のように遺伝子を残すことは出来ない。しかし、物語ることは出来る。神林長平らしい切り口で『創造』というキーワードが少女との関係に如実に表されている。

・成長物語
 本作は、徹底して主人公慧慈の成長物語である。訓練時代の教官達と過ごした日々に始まり、実際の戦場で残留派のテロリストと相対し戦場を経験、そして機械人と出会い、仲間たちと出会い……。やがて最後には、地球を託された者として慧慈の決断が迫られる。
「われらはおまえたちを創った おまえたちはなにを創るのか」
 まさしく冒頭のエピグラフが示す通り、人間によって作られたアートルーパーは何を生み出すようになるのか。物語の根幹はそこにある。
 これは成長物語であると同時、かつまた一人の兵士が創造主となる物語。一種の聖書とも言うべき作品である。

・分厚い!
 文庫本でおよそ600ページ近いもので、しかも上下巻! 分厚い!
 しかし、それでも飽きないのが『膚の下』だ。前述の通り、この小説は言わば聖書である。人間という創造主に生み出された慧慈は、成長し、彼もまた創造するようになる。それまでの長い旅路を追う聖書だ。
 火星三部作の『あなたの魂に安らぎあれ』、『帝王の殻』を含めれば更に長い旅路となるが、しかしその先に待つのは他には代えがたい感動だ。現に私も読後、涙をこらえるような思いだった。
 火星三部作という壮大な世界の、更にその下敷きを創造した一人の人造人間の物語。読み応えは抜群。神林御大の最高傑作に違いはない。

リレーブログ2016年度第9回「蜜柑」(芥川龍之介著)担当:南波

まず更新が大変遅くなってしまったことをお詫びしなければなりません。大変ご迷惑をおかけてしました。言い訳ですが、少し体調を崩しておりまして…気候が安定してませんので体調には気をつけなければなりませんね。さて、お初にお目にかかります。今年度より当サークルに所属させていただくことになりました南波と申します。とは言っても新入生ではないのでオールド・ルーキーですね。
こういうものを書かせていただくのは初めてな上、昔から文章を書くのは苦手でありますが広い心で眺めていただければ幸いです。

私が紹介させていただくのは芥川龍之介の蜜柑です。教科書に載っていたこともあるそうで、芥川の代表作品の1つである短編小説になります。
芥川龍之介は知らぬ人はいない日本を代表する小説家です。1914年に「老年」を発表しデビュー。その後は「羅生門」や「蜘蛛の糸」,「藪の中」などの代表作を生み出します。著書は短編小説が殆どを占めます。長編も挑戦したことはあるそうですが完成には至らなかったようです。そして1927年に自殺。35年の人生でした。
今では殆どの著作が青空文庫で読むことが可能で、私も今回扱う「蜜柑」は青空文庫で拝読させていただきました。

あらすじ
ある曇った冬の日暮れのこと。二等客車の隅に腰を下していた私は披露と倦怠を抱えて発車を待っていた。やがて発車の笛がなると私の乗る二等客車に13,4歳の田舎者らしい小娘が入ってきた。私は小娘の顔や不可解な行動に不快感を持っていたのだが、その後の出来事に私は彼女の行動の一切を了解し、その光景を心に焼き付けることになるのだった。

1.カラフルな発想
前回からの引き継ぎワードです。カラフルと聞いた時に真っ先に私の中に浮かんできた作品がこの「蜜柑」でした。ただし、ここで扱うカラフルというのは前回の意味合いとは少し違って色彩的な意味合いになります。というのもこの作品には「煤を溶かしたようなどす黒い空気」「一旒の白い旗」「気持ちの悪いほど赤く火照らせた」など色彩を表現する部分が多く見られます。まるで主人公の心情と呼応しているかのように小気味悪い色合いですが、だからこそ最後の大切なシーンで「鮮やかな蜜柑の色」が強調されて、私達の心に強く焼き付いてくるのだと思います。

2.少女
物語において少女は様々な印象を読者に与えます。神秘的,不思議,不気味,儚さ…。私は少女にフォーカスした作品が好きなのですが、この「蜜柑」でも少女が全体を通して大きな役割を担っています。作中では「油気のない髪をひっつめの銀杏返しに結って、横なでの痕あとのある皸だらけの両頬を気持の悪い程赤く火照らせた、如何いかにも田舎者らしい娘だった」とされていますので、どちらかといえば不気味な雰囲気も感じると思いますが、それでも最後まで読めば儚さのようなものも深く感じることが出来ると思います。そして私達も少女を別人のように意識してしまうのです。

3.風景描写
2つのワードのまとめのようになってしまいますが、この作品は描写がとても鮮やかで直接的に登場人物と繋がってきます。「夕刊の紙面に落ちていた外光が、突然電燈の光に変って、刷すりの悪い何欄かの活字が意外な位鮮やかに私の眼の前へ浮んで来た」「 隧道へはいった一瞬間、汽車の走っている方向が逆になったような錯覚」など、月並みな表現になってしまいますが、特に恰好良い。もちろん恰好良いだけではなく人間の感覚的な表現になっていますので、とても想起しやすく感じ取りやすいです。また、最後のシーンは少女を含めて奇麗な1枚になっております。「鮮やかな蜜柑の色」と「小娘」が色彩豊かに心の上に焼き付かれます。そしてその光景を感じ取れたならば、主人校と同じく喧騒極まりない現実を束の間だけ忘れることができるのではないでしょうか。

3ワードは以上になります。私個人的な読み方になりますが、この「蜜柑」はストーリーよりも雰囲気を感覚的に楽しめる作品でした。夕刊の紙面の内容などから当時の時代感を汲み取ることが出来ますが現代人においても主人公と似た感覚は持っていると思います。「云いようのない疲労と倦怠とを、そうして又不可解な、下等な、退屈な人生」などの部分などは鬱的な現代の若者にはしっくりくるのではないでしょうか。なので主人公と自分をどうにか上手く重ねて読んでみれば、より強く雰囲気を感じることが出来ます。是非読んでみてください。
ちなみに私の個人的なお気に入りは主人公が煙草に火をつける場面です。恰好良い。

芥川龍之介の経歴の参考はwikipediaより、あらすじの参考と本文の引用は青空文庫「蜜柑」より行っております。

リレーブログ2016年度第8回「大きな森の小さな密室」(小林泰三著) 担当:坂口

初めまして、新入生の六番目として今回のブログを担当する坂口です。新入生の皆さんが素晴らしいリレーブログを書いていらっしゃるので自分もなんとか好きな本の魅力を1%でも多く伝えられるものを書けたらなと思います。

さて、今回紹介させていただくのは小林泰三の「大きな森の小さな密室」です。小林泰三はミステリやSF、ホラーまで様々なジャンルの本を出している作家です。私の好きな作家の1人である小林泰三に興味を持って貰うための一歩として著作の中でも読みやすいミステリー短編集を選びました。

[1]個性豊かな登場人物(前回からの引き継ぎワード)

この本は7つの短編から成り、それぞれ犯人当て、倒叙ミステリ、安楽椅子探偵、バカミス、??ミステリ、SFミステリ、日常の謎というテーマがあります。それぞれの話の探偵役として警察からマッドサイエンティスト、更には殺人鬼等々一癖も二癖もある面々が読者を待ち受けています。

[2]カラフルな発想
短編集の良いところとして一冊の本で複数の世界観を味わえる点があります。
表題作の大きな森の小さな密室は犯人当てをテーマにした作品です。この話では森の奥深くで起こる密室殺人を解きます。密室なんてミステリでよくあるパターンじゃないか、と思ったあなた。きっと作者独特の着眼点によって描き出される物語に驚くこと請け合いです。
他にも死亡推定時刻が百五十万年前というまさにバカミスと言わんばかりの設定が光る更新世の殺人等多岐にわたるジャンルで活躍されている作家らしい色とりどりの世界が広がっています。

[3]意外な結末
ミステリとしては大切なオチの部分ですがこの本でもどの作品もそうきたか、と思える作品ばかりです。作者の斬新な発想から生み出される個性豊かな登場人物達が描く物語はあなたの想像を遥かに越えると思います。

以上、小林泰三「大きな森の小さな密室」の紹介でした。

小林泰三はいくつか短編集を出しており、この本に登場する探偵が出てくるものもあります。この本を読んで面白いと思った人には他の短編集もオススメです。
大学では秋学期の履修が始まり前期よりも面倒く……やりごたえのある授業になったなぁと感じます。中々本を読む時間が取れない人もいるかと思いますがそんな時はこの本のように1話区切りでサッと読める短編集はいかがでしょうか?