リレーブログ2016年度第12回『人間椅子 江戸川乱歩ベストセレクション(1)』(江戸川乱歩著)担当:俺氏

「フェチズム」にふさわしい本とは?
江戸川乱歩の『人間椅子』だと今日は答えてみます。
江戸川乱歩といえば大正・昭和に活躍した小説家。代表作『怪人二十面相』をはじめとして、数々の推理小説を生み出した作家です。日本のミステリー小説を語るには決して外せない人物でしょう。
そんな江戸川乱歩、実は怪奇幻想小説の書き手としても一流なのです。今回紹介する『人間椅子』には、そうした物語だけが8本収録されています。その中のいくつかを3つのキーワードでまとめて書き記します。

・フェチズム
フェチズム(フェティシズムの略)とは、異性の衣服や身体の一部などに価値を見出し執着することです。「人間椅子」では自作の椅子の中に潜み、腰掛けた女の肉体を皮越しに感じ、密かに恋い焦がれたと告白する男が出てきます。また、「押絵と旅する男」では押絵の女に一目ぼれした男が、「鏡地獄」ではレンズと鏡を駆使し不可思議な世界を作り出す男のことが描かれています。他人には無価値なものに心を奪われ、理解できない妄執を抱く。彼らは欲望に呑まれていながら純粋で美しく感じます。

・過去語り
この本では、登場人物がかつて体験した事件を語りだすという形式がほとんどの作品で使われています。彼らの昔話はどれも信じがたく、そんな訳ないだろうと思わず言いたくなってしまいます。事実彼らの言葉を裏付ける証拠はありません。それでも納得させてしまう不思議な説得力が彼らの言葉にはあります。

・奇抜な発想
妻に失恋し自殺。眠りながらの強盗殺人。自宅の押入れで呼吸困難。作品全てが意外性に満ちています。死後数十年経っても色あせない江戸川乱歩の独創性がこの一冊に詰まっています。

『人間椅子 江戸川乱歩ベストセレクション(1)』(江戸川乱歩著 角川ホラー文庫)
収録作品:人間椅子、目羅博士の不思議な犯罪、断崖、妻に失恋した男、お勢登場、二癈人、鏡地獄、押絵と旅する男

リレーブログ2016年度第11回『痴人の愛』(谷崎潤一郎著)担当:K

 FSMのどのカテゴリーにも属さない本を読むことが多く、毎回どの本を紹介すればよいか毎度悩む。そこで例年、直近読んだ中からキーワードに近いものをこじつけ気味に選ぶのであるが、今回は直近のものがぴったりであったため、すぐさま採用した。二つ前の芥川を見て、自分も純文学のような作品を紹介したい、と感化されたのは内緒だ。

 純文学を他の作品から区別する上で、「大衆小説に対して「娯楽性」よりも「芸術性」に重きを置いている小説」(Wikipediaより)かという指標があり、その点から見ると、終始フェチズムを全面に押し出した本作は、後期の作風とは異なり、娯楽性が強いようにも読み取れる。しかし、時代背景のよく表れた文字遣いや、素描のような文体にも関わらず、現前したかのように移りゆく心情の変化は、芸術という他に形容し難い。著名な作品であるため、あらすじは敢えてここには記さない。未読の方は、以下のキーワードから汲み取っていただければと思う。

・成長物語
 前回より引き継いだキーワード。本作は、主人公の会社員がカフエエで目をつけた十五才の少女を自分好みに育てようと試みるも、甘やかすうちに肥大してゆく彼女のエゴを持て余し、次第に手に負えなくなっていく話である。ヒロインのナヲミが成長する様が描かれているが、その様変わりぶりたるや、もはや変貌といえるかもしれない……。

・地元
 この本を読むきっかけは友人からの紹介だったが、奇しくも物語の舞台となる大井町や大森は、私の実家のある地域であった。小説を読む中で自分の見知った場所が唐突に出ると、ドキリとすると共に、どことなく親近感を覚えてしまうという経験はないであろうか。都心近郊に出向く機会が多いため、そういった経験が人より多いのかもしれないが、きっと一度はあのこそばゆさを味わったことがあるのではないか。

・フェチズム
 この作品において最も印象に残るであろう、特徴的な部分がここだ。肢体や香気から五感をくすぐる描写がふんだんに盛り込まれている点も特筆すべきであるが、とりわけ頻繁に表現されているのが足についてだ。これは逐一挙げればきりがないが、気になった方は是非手にとって一読いただきたい。

リレーブログ2016年度第10回『膚の下』(神林長平著)担当:垣野

 どうにも最近はドンパチばかりの冒険小説ばかり読んでいるせいか、芥川のあとに何を引き継げばいいのか迷いに迷いに迷った。少女と言われても、此処最近読んでいるのはオッサンが殴り合うのばかり。風景描写と言っても、某国の某所で如何ように死闘を繰り広げるかとかそんなのばかり。実に迷った。
 それからいろいろあって本棚に相談してみた。すると最終的に彼が出して寄越したのは、敬愛する神林長平御大の『膚の下』だった。火星三部作の完結編にして、神林作品の中でも最高傑作との呼び声も高い本作。いまさら語るまでもないが、ここは一つ語らせてほしい。

われらはおまえたちを創った
おまえたちはなにを創るのか

 このエピグラフから始まる本作は、火星三部作の第一弾にして神林長平初の長編小説である『あなたの魂に安らぎあれ』の前日譚である。ゆえに、もちろん『膚の下』だけでもじゅうぶん面白いのだが、まずは『あなたの魂に安らぎあれ』を読んでからこちらを読んでほしい。そのほうが、感動が二割、三割……いやもっと増し増しだ。
 主人公の慧慈は、アートルーパーと呼ばれる人造人間。彼らアートルーパーの任務は、地球人が火星で冬眠する間、地球の復興作業にあたる機械人たちを監視すること。人間でも機械でもない慧慈は、軍での訓練、地球残留派との交戦、少女や部下との出会いを経て成長していく……。

・少女
 前回より引き継いだキーワードがこれだ。慧慈とある少女との出逢いが、この物語の根幹に関わると言ってもいい。人間たちは機械人を見下し、またアートルーパーも人造人間であると見下す。あくまでも彼らは人間の被造物であり、それ以上でもそれ以下でもない。膚の下に流れるのは、同じ赤い血であるにも関わらず……。
 そんな苦悩を抱く慧慈は、火星に冬眠予定のある少女と友情を育む。人間たちは、火星で長い眠りに着く。そのあいだ、アートルーパーたちは人間の代役、機械人の監視役として地球に残る。もちろん人間が地球へと戻ってきたころには、もう慧慈たちは死んでしまっている。
 そこで慧慈は少女とある約束をする。日記をつけ、それを残すこと。そして少女が地球へと戻ってきた時、彼女はそれを読むことで慧慈を思い起こすことだ。アートルーパーは人間のように遺伝子を残すことは出来ない。しかし、物語ることは出来る。神林長平らしい切り口で『創造』というキーワードが少女との関係に如実に表されている。

・成長物語
 本作は、徹底して主人公慧慈の成長物語である。訓練時代の教官達と過ごした日々に始まり、実際の戦場で残留派のテロリストと相対し戦場を経験、そして機械人と出会い、仲間たちと出会い……。やがて最後には、地球を託された者として慧慈の決断が迫られる。
「われらはおまえたちを創った おまえたちはなにを創るのか」
 まさしく冒頭のエピグラフが示す通り、人間によって作られたアートルーパーは何を生み出すようになるのか。物語の根幹はそこにある。
 これは成長物語であると同時、かつまた一人の兵士が創造主となる物語。一種の聖書とも言うべき作品である。

・分厚い!
 文庫本でおよそ600ページ近いもので、しかも上下巻! 分厚い!
 しかし、それでも飽きないのが『膚の下』だ。前述の通り、この小説は言わば聖書である。人間という創造主に生み出された慧慈は、成長し、彼もまた創造するようになる。それまでの長い旅路を追う聖書だ。
 火星三部作の『あなたの魂に安らぎあれ』、『帝王の殻』を含めれば更に長い旅路となるが、しかしその先に待つのは他には代えがたい感動だ。現に私も読後、涙をこらえるような思いだった。
 火星三部作という壮大な世界の、更にその下敷きを創造した一人の人造人間の物語。読み応えは抜群。神林御大の最高傑作に違いはない。

リレーブログ2016年度第9回「蜜柑」(芥川龍之介著)担当:南波

まず更新が大変遅くなってしまったことをお詫びしなければなりません。大変ご迷惑をおかけてしました。言い訳ですが、少し体調を崩しておりまして…気候が安定してませんので体調には気をつけなければなりませんね。さて、お初にお目にかかります。今年度より当サークルに所属させていただくことになりました南波と申します。とは言っても新入生ではないのでオールド・ルーキーですね。
こういうものを書かせていただくのは初めてな上、昔から文章を書くのは苦手でありますが広い心で眺めていただければ幸いです。

私が紹介させていただくのは芥川龍之介の蜜柑です。教科書に載っていたこともあるそうで、芥川の代表作品の1つである短編小説になります。
芥川龍之介は知らぬ人はいない日本を代表する小説家です。1914年に「老年」を発表しデビュー。その後は「羅生門」や「蜘蛛の糸」,「藪の中」などの代表作を生み出します。著書は短編小説が殆どを占めます。長編も挑戦したことはあるそうですが完成には至らなかったようです。そして1927年に自殺。35年の人生でした。
今では殆どの著作が青空文庫で読むことが可能で、私も今回扱う「蜜柑」は青空文庫で拝読させていただきました。

あらすじ
ある曇った冬の日暮れのこと。二等客車の隅に腰を下していた私は披露と倦怠を抱えて発車を待っていた。やがて発車の笛がなると私の乗る二等客車に13,4歳の田舎者らしい小娘が入ってきた。私は小娘の顔や不可解な行動に不快感を持っていたのだが、その後の出来事に私は彼女の行動の一切を了解し、その光景を心に焼き付けることになるのだった。

1.カラフルな発想
前回からの引き継ぎワードです。カラフルと聞いた時に真っ先に私の中に浮かんできた作品がこの「蜜柑」でした。ただし、ここで扱うカラフルというのは前回の意味合いとは少し違って色彩的な意味合いになります。というのもこの作品には「煤を溶かしたようなどす黒い空気」「一旒の白い旗」「気持ちの悪いほど赤く火照らせた」など色彩を表現する部分が多く見られます。まるで主人公の心情と呼応しているかのように小気味悪い色合いですが、だからこそ最後の大切なシーンで「鮮やかな蜜柑の色」が強調されて、私達の心に強く焼き付いてくるのだと思います。

2.少女
物語において少女は様々な印象を読者に与えます。神秘的,不思議,不気味,儚さ…。私は少女にフォーカスした作品が好きなのですが、この「蜜柑」でも少女が全体を通して大きな役割を担っています。作中では「油気のない髪をひっつめの銀杏返しに結って、横なでの痕あとのある皸だらけの両頬を気持の悪い程赤く火照らせた、如何いかにも田舎者らしい娘だった」とされていますので、どちらかといえば不気味な雰囲気も感じると思いますが、それでも最後まで読めば儚さのようなものも深く感じることが出来ると思います。そして私達も少女を別人のように意識してしまうのです。

3.風景描写
2つのワードのまとめのようになってしまいますが、この作品は描写がとても鮮やかで直接的に登場人物と繋がってきます。「夕刊の紙面に落ちていた外光が、突然電燈の光に変って、刷すりの悪い何欄かの活字が意外な位鮮やかに私の眼の前へ浮んで来た」「 隧道へはいった一瞬間、汽車の走っている方向が逆になったような錯覚」など、月並みな表現になってしまいますが、特に恰好良い。もちろん恰好良いだけではなく人間の感覚的な表現になっていますので、とても想起しやすく感じ取りやすいです。また、最後のシーンは少女を含めて奇麗な1枚になっております。「鮮やかな蜜柑の色」と「小娘」が色彩豊かに心の上に焼き付かれます。そしてその光景を感じ取れたならば、主人校と同じく喧騒極まりない現実を束の間だけ忘れることができるのではないでしょうか。

3ワードは以上になります。私個人的な読み方になりますが、この「蜜柑」はストーリーよりも雰囲気を感覚的に楽しめる作品でした。夕刊の紙面の内容などから当時の時代感を汲み取ることが出来ますが現代人においても主人公と似た感覚は持っていると思います。「云いようのない疲労と倦怠とを、そうして又不可解な、下等な、退屈な人生」などの部分などは鬱的な現代の若者にはしっくりくるのではないでしょうか。なので主人公と自分をどうにか上手く重ねて読んでみれば、より強く雰囲気を感じることが出来ます。是非読んでみてください。
ちなみに私の個人的なお気に入りは主人公が煙草に火をつける場面です。恰好良い。

芥川龍之介の経歴の参考はwikipediaより、あらすじの参考と本文の引用は青空文庫「蜜柑」より行っております。

リレーブログ2016年度第8回「大きな森の小さな密室」(小林泰三著) 担当:坂口

初めまして、新入生の六番目として今回のブログを担当する坂口です。新入生の皆さんが素晴らしいリレーブログを書いていらっしゃるので自分もなんとか好きな本の魅力を1%でも多く伝えられるものを書けたらなと思います。

さて、今回紹介させていただくのは小林泰三の「大きな森の小さな密室」です。小林泰三はミステリやSF、ホラーまで様々なジャンルの本を出している作家です。私の好きな作家の1人である小林泰三に興味を持って貰うための一歩として著作の中でも読みやすいミステリー短編集を選びました。

[1]個性豊かな登場人物(前回からの引き継ぎワード)

この本は7つの短編から成り、それぞれ犯人当て、倒叙ミステリ、安楽椅子探偵、バカミス、??ミステリ、SFミステリ、日常の謎というテーマがあります。それぞれの話の探偵役として警察からマッドサイエンティスト、更には殺人鬼等々一癖も二癖もある面々が読者を待ち受けています。

[2]カラフルな発想
短編集の良いところとして一冊の本で複数の世界観を味わえる点があります。
表題作の大きな森の小さな密室は犯人当てをテーマにした作品です。この話では森の奥深くで起こる密室殺人を解きます。密室なんてミステリでよくあるパターンじゃないか、と思ったあなた。きっと作者独特の着眼点によって描き出される物語に驚くこと請け合いです。
他にも死亡推定時刻が百五十万年前というまさにバカミスと言わんばかりの設定が光る更新世の殺人等多岐にわたるジャンルで活躍されている作家らしい色とりどりの世界が広がっています。

[3]意外な結末
ミステリとしては大切なオチの部分ですがこの本でもどの作品もそうきたか、と思える作品ばかりです。作者の斬新な発想から生み出される個性豊かな登場人物達が描く物語はあなたの想像を遥かに越えると思います。

以上、小林泰三「大きな森の小さな密室」の紹介でした。

小林泰三はいくつか短編集を出しており、この本に登場する探偵が出てくるものもあります。この本を読んで面白いと思った人には他の短編集もオススメです。
大学では秋学期の履修が始まり前期よりも面倒く……やりごたえのある授業になったなぁと感じます。中々本を読む時間が取れない人もいるかと思いますがそんな時はこの本のように1話区切りでサッと読める短編集はいかがでしょうか?

リレーブログ2016年度第7回 「神去なあなあ日常」(三浦しをん著) 担当:富田

皆様初めまして、新入生五番目としてブログを書かせていただく富田です。このサークルでは幻想文学やミステリーが多いようですが、普段私はほのぼのとした小説を読むことが多いです。時々ミステリーやクセのある本を読む感じです。なお、文章力が低い上にブログというものを書いたことが無かったため、他の方と同じような文章構成になっているかもしれませんが、温かい目で読んでいただけると幸いですm(__)m

今回紹介させていただくのは、三浦しをんの「神去なあなあ日常」です。読もうと思ったきっかけは、この本の続編の「神去なあなあ夜話」が文庫化しました! という電車のドア広告を見たからです。つまり大分過去に出版された本ですがご了承ください。
この本のテーマはズバリ「林業」です
。主人公の平野勇気は高校まで勉強をろくにせず、高校を出たらフリーターで食っていこうと考えていた矢先、突然母から「就職先が決まったからここで住み込みで働け」と言われ、荷物と住所の書かれた紙を渡されて家を追い出されてしまいます。仕方なく就職先に行きましたがそこは三重県の林業の現場だった!……
これ以上は、ネタバレになってしまうかもしれないのであらすじ紹介はここまでにします。

[1]専門的知識を練り混ぜたストーリー(引き継ぎワード)

やはり主人公が林業に奮闘する様子を描く上でその専門知識は重要になってきます。省いてしまうこともできますがそれでは林業の魅力は伝わらないと思います。木の伐倒の仕方や木の登り方など、思わずへぇーと言ってしまうことがあるでしょう!

[2]個性豊かな登場人物

この本の魅力はなんといっても登場人物の面白さです。村一番の力持ちや普段はじっとしているが、いざというときに素早く動いて主人公を助けてくれるおばあちゃん、いつものんびりとしている村民、などなど様々な人物がひしめいています。登場人物同士のやり取りは非常におもしろいです。

[3]これぞ、日本の田舎

この本の舞台の神去村は、実在しない村ですが、日本の田舎らしいと感じました。まず「なあなあ」というのは、この村独自の方言であり「のんびり行こう」「元気ですか?」などのいくつもの意味を兼ねているので大変便利です。ですが都会では絶対使えないでしょう。
また、この村は携帯電話が通じず、インターネットも入っていません。とても不便で退屈な日々だと思われるかもしれませんが、都会にはない大自然が広がっているので毎日心が癒されるでしょう。

最後まで読んでいただきありがとうございました。続編もありますが物語の矛盾を防ぐためにも「~日常」から読むことを強くおすすめします。
東洋の夏休みももう終わりです。また単位のことを考えていかなきゃならないと思うと悲しい、でもそんな悲しみを読書で吹き飛ばそうと思います。

リレーブログ2016年度第六回 「へんないきもの三千里」(早川 いくを著) 担当:紫田

皆さまはじめまして、新入生四番手を務めさせて頂く紫田です。普段から、随分と偏った本しか読まないために、今回のリレーブログでは随分と苦悩したので、今後は幅広いジャンルの本を読んでいこうと思います。なお、稚拙な文章で誠に恐縮ですが、長い目で見てください。

今回ご紹介させていただく本は、早川いくをの『へんないきもの三千里』という本です。この作家さんは『へんないきもの』という、実在する奇妙な生き物を紹介する本で大ブレイクした方で、本書はそのテーマで小説化したものです。斬新な表現で、ストーリーを進めるので正直笑いが止まらなくなる。

あらすじ
生き物がきらいなオシャレ大好き少女芦屋ユカリは、己の恋を実現するために、おまじないでカエルを舐めた。すると気が付くと異世界に飛ばされて、様々な奇妙な生き物と遭遇していくのである――

[1]現実の昇華としてのフィクション(前回の引継ぎワード)
この物語はフィクションであるのは当然としても、この物語で描かれる生き物たちの掟はフィクションではない。強いものが弱いものを食らうという弱肉強食という構造があり、または体を変化させることでたくましく生きる生物がある。そのような世界に、一人の少女が入り込むという物語は、道具を発達させることにより生態ピラミッドの枠から抜け出してしまった人間に対して、問題を提起させるのではないだろうか。

[2]何だ、これは!
別段作品中に岡本太郎が出てくるわけではないが(岡本太郎が創造したのではないか思わせる生物はたくさん出てくる)、本書籍、及び早川いくをの著書を読むと思わずそう言いたくなる。先述のとおり早川いくをの作品は、斬新で奇抜な表現と物語で攻めてくる。読み進めていくと、この先の展開が気になってしょうがなくなるうえ、衝撃と笑いも止まらなくなる。

[3]専門的知識を練り混ぜたストーリー
ランプシリス、パロロ、ウシナマコ・・・等々、まるで聞いたことのない生物名やその生態が、本書籍ではごく当たり前に出てくる。しかしながら、独特の文章によって読者に対して難解さを持たせなくしているので、逆にこうした専門的知識を練り混ぜた構成が物語の面白さを際立たせている。

以上が「へんないきもの三千里」のご紹介でした。この本以外にも、「へんないきもの」「またまたへんないきもの」などがありますので、読書の秋にどれか一冊手を伸ばしてみたらいかがでしょうか。

リレーブログ2016年度第5回目「リアリズムの闇と光」(H・クライスト著/種村季弘訳)担当:ナリエ

幻想文学研究会新会長のナリエです。
一月振りの更新となります。会長就任早々リレーブログをすっぽかすという暴挙に出たことにつきましては、まことに申し訳ありませんでした。反省はしている。今月からまた会員の皆様と協力しつつ更新してゆく所存です。

今回お薦めさせて頂くのは、河出文庫から刊行のハインリヒ・フォン・クライスト著『チリの地震』です。
『クライスト短篇集』と打たれた副題の通り、ドイツの作家H・クライストの作品集となっています。クライストは夭折、また本業文学者ということもあり、残した作品の数はそれほど多くありません。だからこそ、当短編集はクライストに接近しようという読者にとって価値のあるものとなるでしょう。
収録内容は表題作を含め『聖ドミンゴ島の婚約』、『ロカルノの女乞食』など前八篇。表題作でもある『チリの地震』に特に注目してご紹介したいと思います。

【あらすじ】
醜聞によって引き裂かれたチリの一組の恋人たち。女は死刑の執行、男は絶望から自殺を遂げんとしていたまさにその時、未曽有の大震災が街を襲う。大勢の人々が命を落としたこの災害で、二人は皮肉にも死を免れることになるが……。

1.【残酷】
前回から引き継いだキーワードになります。
『チリの地震』にはクライストならではの乾いたリアリズムが通っています。
ヒロインのジョゼフェは、修道女でありながら主人公ジェローニモの子を身ごもったことで極刑を言い渡されます。これは作中で「神への不敬」とされますが、実際には人の法によって定められた罪に他なりません。一方、震災は人の手の及ばない神の采配の領域と言えます。震災という不幸によって辛くも命を救い、再会を果たした二人の愛は「天に許された」ものだと見なすことが出来る一方、人々は奇跡に免じて二人を許したりはしないのです。
二人の迎える結末は、人間の残酷さをここまで無慈悲に描き出した作品もそうないと思えるほどです。

2.【現実の昇華としてのフィクション】
『チリの地震』は17世紀にチリのサンティアゴで実際に起きた震災を元としています。内容は完全なるクライストの創作であり、実際の震災の模様とは異なる部分も多々ありますが、この出来事が作品にインスピレーションを与えたことは間違いありません。クライストは地震の恐怖や混乱というものが人々の真の姿を描き出すのにうってつけだと考えたのかも知れません。
このような実話を元としたフィクションは、完全なるフィクションともドキュメンタリーとも異なり、独特な立ち位置を獲得しています。それは「現実」の作者なりの解釈であり、答えとしての小説なのでしょう。しかしクライストの小説が優れているのは、飽くまで淡々と物語を描くことで、それを押しつけがましく感じさせないところです。そして、この小説に対する感想は、当然ながら個々の読者に委ねられています。

3.【トゥルーエンドの物語】
クライストの作品は必ずしもハッピーエンドと言えるものばかりではありません。むしろ、苦い後味を残すものが大半でしょう。しかも因果応報など自身の業によるのではなく、不条理に翻弄され、しかも何の救いもないといったものまで見受けられます。その傾向は『チリの地震』や『拾い子』などに顕著です。
しかし、クライストのストーリーテリングはお涙頂戴の悲劇というわけでも決してないのです。人々を泣かせたいがための強引なトラジディというものも、世の中には存在します(残念ながら)。クライストの小説にそのような無理は見られません。むしろなるべくしてこうなった、と思わざるを得ないようなリアリティが感じられます。ハッピーエンドではなくとも、トゥルーエンド。彼の作品に闇を見出すか光を見出すかは、読み手の感受性次第です。

以上で『チリの地震』の紹介を終わります。
8月の真夏日、猛暑日には無理に外へ出ずとも、家の中でゆるりと読書などして過ごしましょう。無論、屋内だからと言って水分補給は怠らず。

リレーブログ2016年度第四回 「密室殺人ゲーム王手飛車取り」(歌野 晶午著) 担当:野島

皆さま初めまして新入生の野島と申します。三回連続での新入生でのブログ更新ラッシュ、三番目の刺客として選ばれた私ですが、文章力としては道端にいる経験値稼ぎにすらならない雑魚のような実力なので、皆様としては多少の物足りなさを感じるかもしれませんがどうぞ寛容な心でご覧ください。

さて今回紹介させていただくのは、歌野晶午の『密室殺人ゲーム王手飛車取り』です。今絶賛マイブームの作家さんである歌野さんの作品です。多分知らない方も多いんじゃないかと思ったので、是非とも読んでもらいたいと思い紹介させていただくことにしました。

あらすじ
この作品に出てくる5人の登場人物は、ネット上で殺人推理ゲームの出題をしあう。ただし、ここで出題される殺人事件はすべて、出題者の手で実際に実行済みの現実に起きた殺人なのである・・・

[1]読者を翻弄するトリック(引継ぎワード)
まさかの連続引継ぎワードとして選ばれたこの「読者を翻弄するトリック」ですが、作者である歌野さんはこの手の手法を得意としているのでしょうがないですね。ハイ
作品序盤から作り上げてきた自分の想像を終盤で見事に裏切られる衝撃はかなりのものです。私は歌野さんがこのような手法を使っていることを知ったうえで読んだのですが、見事に騙されてこの衝撃を受けました。

[2]残酷
あらすじにも書いてある通り、この作品で扱われる殺人事件はすべて登場人物が実際に実行した事件です。これだけでも十分残酷なんですが、登場人物たちはだんだんと高い難易度、強い刺激を求め、出題される事件の内容はどんどんエスカレートしていきます。

[3]ネット
この作品はほとんどがネット上のやり取りを書いたものとなっていて、そこでの情報のやり取りなど、ネットの便利さが垣間見えます。そして、お互いがお互いのことを知らないまま話を進めることができるというのも、この話で重要になってくるポイントです。

さて、私の文章力はいかがでしたでしょうか?あまりになさ過ぎて絶望している方もいらっしゃるかとも思いますが、今回私が紹介した『密室殺人ゲーム王手飛車取り』は本当に面白いので是非とも読んでいただけたらなと思います。そしてこの作品が気に入っていただけたのなら、歌野さんのほかの作品もぜひ読んでいただきたいと思います。
ちなみにこの作品、『密室殺人ゲーム2.0』と、『密室殺人ゲームマニアックス』という続編が出ていますのでそちらも楽しんでいただけたらなと思います。
ありがとうございました。

リレーブログ2016年度第三回 「イニシエーション・ラブ」(乾 くるみ著) 担当:清水

皆様、初めまして。新入生の清水と申します。入学して既に2ヶ月以上が経過し、そろそろ授業のルーチンに慣れ、大学構内での移動に困らなくなってきました。6月も半ばなので、関東地方は梅雨入りしましたが、傘を差さずとも、濡れずに移動できるようになった事実に感動しております。
このリレーブログ、前回分を同じ新入生の上田君が素晴らしい物を書いてくれたので、震えながら文章を考えている次第です。あまり余計な話をしているのもアレなので本題に入ります。
今回紹介させていただくのは、乾くるみ『イニシエーション・ラブ』。リレーブログのために翻弄されそうなトリックを用いたミステリ本を探していたら目に入ったので手に取ることにしました。本を手に取った時の率直な感想としては、タイトルと表紙のイラストだけ見ると恋愛小説かな?ということです。読み進めると実際その通り。終わる直前までは。最後まで読めばミステリと言われている理由がわかります。同書はミリオンセラーを達成し、2015年には映画化もされたようで、流行っていたらしいです。私、完全に流行に乗り遅れていますね。ちなみに、私が読んだのは文春文庫版。解説が最後についているので、単行本ではなく文庫版がおすすめです。

あらすじ
主人公の鈴木は男子大学生。数合わせとして参加した合コンで運命的な出逢いをし、成岡という女性と恋に落ちる。鈴木が就職してからも交際を続けていた二人は、仕事や家庭の事情で離れ離れになってしまい、遠距離恋愛となってしまうが、鈴木が勤務先が同じ女性である石丸に惹かれて二股をかける。やがて不注意からそのことが成岡にバレてしまい、二人は破局を迎える――

……というのがあらすじです。しかし、このあらすじにはフェイクが入っています。いやーネタバレ防止って難しい。

[1]読者を翻弄するトリック(前回からのリレーワード)
これがいわゆる叙述トリックか、という形でまんまとハマってしまいました。決して複雑ではないんです。でも、読んでいる途中になんか変だなとひっかかる部分を最後で一気に「あーそういうことか!」と言わせるようになっています。私はあまりミステリを読まない(読む時もトリックを考えながら読まない)ので新鮮でした。ネタバレが怖いのでトリックの中身は書きませんとも。ええ。

[2]酒
主人公の鈴木は目立つ方ではない、おとなしい人物なのでウェイな飲み会はあまり好きではありません。でも不思議と酒を呑むと人が変わったように暴れるようになってしまうんですね。酒で性格が変わる人は結構いますよね。そして酒が入っていると恋愛に発展しやすいのも事実らしいです。あーお酒怖いなー。

[3]怖い女性
あらすじには書きませんでしたが、鈴木が浮気した女性の石丸は、彼に付き合っている女性がいると知った上で、ひたすらに誘惑してきます。直接に別れてしまえとは言ってこないにも関わらず、上手に外堀を埋めていくしたたかさは見事です。

あまりまとまっていませんね。でも、これでいいんです。読めば僕が何を考えてこのキーワードを挙げたのかがわかるはずです。これ以上なにか書けばそれがすぐにネタバレに繋がる。それだけ上手に文章と物語が組み上げられているのが、今回紹介した『イニシエーション・ラブ』です。「必ず二回読みたくなる」と煽られているだけのことはありますよ!