はじめまして、一年の白山慶劃です。

飛び交うセミがこちらに向かわないか戦々恐々の今日この頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか。今年も相変わらず暑いですね。因みに佐藤大輔を崇拝した結果、〆切二か月過ぎました。本当に申し訳ない。
紹介するのは、野尻抱介の「太陽の簒奪者」です。ネタバレさせて頂きますので、お覚悟を。

あらすじ(裏表紙より引用)
西暦2006年、水星から突如として噴き上げられた鉱物資源は、やがて太陽をとりまく直径8000万キロのリングを形成しはじめた。日照量の激減により、破滅の危機に瀕する人類。いったい何者が、何の目的でこの巨大リングを創造したのか?―異星文明への憧れと人類救済という使命の狭間で葛藤する科学者・白石亜紀は、宇宙艦ファランクスによる破壊ミッションへと旅立つが…。

<ファーストコンタクト>
2017年上半期のSF界隈は、ファーストコンタクトものを流行らせようという動きが露骨であったが、本作は日本SF復興の狼煙を挙げたゼロ年代のファーストコンタクトの一つである。本作は、未知のナノテクノロジーが急速に作り上げた「リング」の発見と、それを建造したであろう異星人、即ちビルダーと直接出会うまでの過程に大きく紙面を割いており、野尻抱介らしい軽い文体でありながらハードSFとしての評判にも頷けるリアリティ溢れる描写が魅力。当然、技術面に留まることはなく、意図せざると言えども冷害による被害を与えた脅威としての側面を持つビルダーと、これに対峙する人類側の、友好派と脅威派双方の葛藤の描写も象徴的である。しかし、私が敢えて注目したいのは、AIとの関係だ。

<AI>
2017年の今だからこそ、異星人と同じだけの存在感を発しているものが、AIナタリアと言えよう。ナタリアは作中では唯一真に異星人と交流できた人類の生み出した存在であり、また人類では理解することができなかった存在であった。作者は、ファーストコンタクトというものは、必ずしも異星人などの人類とは関係のなかった知性体と起こることではなく、人類が生み出した知性体であっても起こり得るということを表したかったがために、AIを出したと語っている。2045年に技術的特異点―シンギュラリティー、即ち人類を越える能力を有する汎用AIが誕生するとまことしやかに語られるが、面白いことに、現在人類の開発している専用AIであっても、その技術は黒魔術と開発者自身が揶揄するほどブラックボックス状態に陥っている。また、Facebookのチャットボットの二機が突如として独自の文法を用いて会話を始めたことも耳新しい

これらAIの共通点は、深層学習を用いて独自に学習しており、AIの意図を人間が読めない点にある。これは、人間には読み切れないほどの膨大な情報を、しかも自己学習してしまう為に、共通のお約束というものをAIが共有していないことが一因として挙げられる。勿論、他の要因も考えればキリがないが、それを考えるだけでも異質の存在を理解することの難しさは想像できよう。このような、AIの意図を解析する、或いは人間に理解させる機能を実装させる動きは、技術的特異点と呼ばれるほどに社会へ影響を及ぼすと考えられる、汎用AIの開発に向かうにつれて本格化するだろう。人間とは、宣託の巫女に全てを任せられるほど理想主義でなければ、また完全なものを造り出せるほど優れている訳でもないからだ。既に異なる文明とのファーストコンタクトを繰り返してきた我々の歴史において、将来確実に起こり得る新らたなファーストコンタクトとは、AIとの対話であろう。

<死>*前回からの引き継ぎワード
エピローグは思わぬ人物の独白で戸惑った者もいるだろう。少なくとも、私はその一人だ。何故彼なのかは読み進めればその訳が判る一方で、その意図について考えさせられることになる。異質な存在として設定されたビルダーたちの死生観と共にその思案を垣間見ることになるエピローグは、僅か二ページしかないが、しかしある意味で、最も鮮やかにビルダーと人間との違いを描いていると言ってもよい。同時に、彼らなりの温もりを感じさせられるこのエピローグは、どこか希望に満ちた作風の野尻抱介らしさも感じられる。

負けました、このエピローグ、好きです。

最後に…
没原稿とした伊藤計劃「ハーモニー」の書評は、会誌に投稿予定です。