2017年度第一回リレーブログ「春琴抄」谷崎潤一郎 著 担当 うどん粉

 皆さんこんにちは。ご機嫌はいかがでしょうか。今年から幻想文学研の会長となります、うどん粉です。至らぬ身ではございますが、これからよろしくお願いします。
 今世間では桜舞い散る季節となり、あらゆる物事が「始まる」時期であると思います。そういった時期になると期待と共に、秋とは違った物寂しさが心に吹き込む気がします。しませんかそうですか。
 
 さて、長くお堅い挨拶はほどほどに。今年度最初ということで今回はリレーブログの簡単な説明もかねて進めていきたいと思う。
 リレーブログは会員がオススメの本を3つのキーワードを使って紹介していくというもの。その3つのキーワードの内の1つは前任の会員が使ったものから引き継ぐ。但し、前任の会員がさらにその前の会員から引き継いだものは選べない。つまり、ずっと同じキーワードを引き継ぐことはできない仕様となっている。ずっと同じだとつまんなくなっちゃうからね。しょうがないね。
 
 うだうだと近況報告と説明に文字を消費するのも悪くないのだが、本題の作品紹介と行くとしよう。今回紹介する作品は、谷崎潤一郎氏の「春琴抄」。この作品、今更僕のようなクソ雑魚ナメクジが紹介なんておこがましい事この上ないがどうしても書きたくなっちゃったのである。いいだろ好きなんだから。この作品は「鵙屋春琴伝」という一冊の書物を手にした「私」が、春琴の墓と、その横に小さくある佐助の墓を参り、2人の奇縁を語り始めるモノローグで始まるという、第三者の視点から二人の人物「佐助」と「春琴」の人生を語る形式となっている。
 丁稚の佐助は失明した春琴の目であり、琴の弟子として日々を過ごす。そのままいろいろありながらも春琴の方はわがまま且つ自尊心が強く育ち、佐助はそんな春琴に従順な弟子兼世話役として成長する。しかし春琴の性格が災いしある夜、何者かにお湯を顔にぶっかけられるという事態になってしまう。命に別状はないものの、かつての美貌は火傷によって損なわれ二人は悲しみに暮れる。そこで佐助が起こした行動とは己の目を潰し、春琴の惨状を見ることなく側に仕え続けるといもの。これに感激した春琴は佐助をこの先最後の時まで側に仕えさせ続けさせた。盲目ではあれど2人は互いに手や皮膚で触れるものから愛情を分かち、享受して過ごした。佐助が目を潰してそれを春琴に告げたその瞬間が、かけがえのない主従関係から「夢の中」で愛し合う二人になった時なのだろう。

【キーワード1:思考】※引継ぎキーワード
 この作品は谷崎氏の考える耽美なるものをこれでもかと盛りに盛った作品だということがよく言われている。マゾヒズムの極地。しかし単に肉欲を求めるだけのマゾヒズムではなく、そこには神に対する尊敬と畏怖に似た美しいものへの崇拝のようなものがあり、己の身を焼いてでもそれに奉仕したい、若しくは近くにいたいという彼の考えが垣間見える。その甘い香りに読者である我々は惹かれ、酔いしれ、蜂蜜に浸る砂糖のようにひたすらに脳髄の奥を溶かし、恍惚の息を漏らすのだ。これこそが彼の求めた耽美というものなのかもしれない。

【キーワード2:官能性】
 世に出回る官能小説と比較してみて、皆さんはこの小説を官能小説とは呼ばないかもしれない。一般に官能小説とは性描写が入ってきてこそと思われる。確かにそれもある。しかし、官能とは感覚器官を通して得られる快さのことで、特に性的な感覚を言う。直接的な性描写でなくとも我々は、視覚を通して脳にこの作品のような歪でありながらも美しく魅惑的な愛の世界を送り込むことで耽溺し、悦に浸ることが出来る。これは立派な純愛小説であり、官能小説である。決して官能を卑下することなかれ。

【キーワード3:幻想】
 佐助が己の目を潰したのは本当に春琴の為であろうか。僕はそうではないと思う。正確には愛する者の為も一応あっただろう(現に春琴は包帯を換えるときは見られたくないからと、佐助すら部屋を追い出されるほど塞ぎこむ)が、自分の中で出来上がった美しい「春琴」を醜くなった春琴で汚されたくなかったから、というのが本音だと思う。きっと耐えられなかったのだろう。佐助は自ら醜く変わった外界を捨て、自分の中の幻想の春琴と生きることを選んだのだ。声と体温は現実の春琴が補ってくれるから佐助は思う存分に「春琴」と愛し合える。2つの世界を通して春琴という存在を愛す。佐助は作中最も身勝手ながらも、最も愛情深かったのだ。

 
 さて、かなりのビッグネームを紹介したわけだが、内心冷や汗ダラダラである。あかん、これ的外れなこと書いてるんちゃうか、みたいな感じの。ま、お叱り等は勘弁してやってください。何しろケツの青いクソガキなもんで。

リレーブログ2016年度第14回『くっすん大黒』(町田康著)担当:佐藤

明けましておめでとうございます。去年は大変お世話になりました。今年も宜しくお願いいたします。2016 年は本当に多くの方々にお世話になりました。その分2017 年はお世話になった方々にできる限りの恩返しができたらな、と考えています。
それはそれとして突然ですが皆さん、クズ、してますか?クズに興味があり、なおかつまだしていないのであれば大学生のうちにやっておきましょう。なぜならば今が社会的なリスクを負わずにクズでいられる最後の機会だからです。オール自慢、二日酔い自慢、サボり自慢が通じるのは今だけなのです。もし社会人になってから「クズなことをしたい!」「オレは最強のクズになってやるんだ!」と一念発起し前述のようなことをした場合上司や先輩に怒られ、同僚には疎まれ、部下や後輩に蔑まれるという辛い窓際生活を送ることになってしまいます。かと言って一度もクズをやった経験がない場合、将来飲み会等で定番の「昔はクズだった自慢」の流れになった時会話に参加できず、ただ傍らで作り笑いをするだけの辛い時間を過ごす羽目になってしまいます。クズはできるうちに、存分にしておきましょう。そういう訳で今回は「クズなことをしたい!でも具体的に何をすればいいの?」という皆さんの指針となる、主人公がクズな小説を紹介したいと思います。芥川賞受賞作家、町田康の処女作であり代表作の一つでもある「くっすん大黒」。妻に逃げられた自堕落な男が何度捨てようとしても捨てられない大黒様の置物を捨てるために同じく自堕落な友人、「菊池」と共に捨てに放浪するという「薄汚れたロード・オブ・ザ・リング」のようなストーリーです。

・テーマ性(引き継ぎワード)
ユーモラスな文体とは裏腹にこの小説に一貫して描かれているものは誰しもが持っている自分への漠然とした怒り、鬱屈とした感情や嫌悪、焦燥といったマイナスな感情です。意外と共感できる箇所も多いと思います。

・荒唐無稽
この小説を一言で表すのならばこの一言につきます。明確な「得るもの」を求めて読書をするタイプの人には全く向きません。この小説の掴みどころのなさに怒りを覚えることでしょう。

・思考
皆さんが文章を書くとき、頭の中の文章をどうやって文字に起こしますか?大抵の人は脳内にあるふわふわとしたイメージの断片を関連付け、順序付けして論理的意味の通ったものにするという工程を経て文章にすると思うのですが、この作者はそれをしません。脳内にあるふわふわとしたイメージの断片をそのままに近い形で文章に起こしているのです。それでいて全く意味不明、という訳ではなく何を言わんとしているのかが何となく分かるのです。これは絶妙なバランス感覚の持ち主でないとできないことです。こればかりは読んでみないとうまく伝わらないと思いますので気になったらぜひ読んでみてください。もし肌に合わなくとも話の種にはなります。

リレーブログ2016年度第13回『ブラインドサイト』(ピーター・ワッツ著)担当:大野

まずは謝罪から、12月後半担当だったのですがかなり遅れてしまい申し訳ありません。
言い訳をさせていただくと今回の本がハードSFでちょっとバリカタ過ぎまして…
読むのが辛かったというか、なんというか・・・面白かったんですけどね!
さて、初めまして新入生の大野と申します。サークルには7月から所属しましたので顔を合わせていない方もいるかと思います。以後お見知りおきを…

今回紹介させて頂く本はピーター・ワッツの『ブラインドサイト』です。
第45回星雲賞の海外長編部門を受賞。作者は博士号を取得した海洋生物学者にしてSF作家。学者だからなのか理論づけられた文章は、興味深くも難解。メインテーマは「意識」、人の意識とは何か、それが何のために存在し、どのように働くのかについて、500ページもの物語で迫っていく。伊藤計劃の『ハーモニー』は英訳されているため、『ブラインドサイト』とのテーマの共通性を指摘する書評や感想もあるそうです。

あらすじ(引用)
突如地球を包囲した65536個の流星の正体は、異星からの探査機だった。調査のため出発した宇宙船に乗り組むのは、吸血鬼、四重人格の言語学者、感覚器官を機械化した生物学者、平和主義者の軍人、そして脳の半分を失った男。彼らは人類の最終局面を目撃する―。

・過去語り(引き継ぎワード)
この本では各章の始まりなどの場面転換の際、主人公シリ・キートンの過去のエピソードが語られる。主人公の、父、母、親友、そして恋人とのやりとり。脳を半分失い共感能力を失った男のコミュニケーションはどうしようもなく上手くいかない。

・テーマ性
前述の通り「意識」がテーマのこの作品。意識が知性にとって障害となるという議論を、哲学から科学まであらゆる視点で総合的に考察していく。また、語り手がくり返し”自分が・・・だと想像してみてくれ”と読者に呼びかけることで”他者に共感することは可能なのか””人は他者を理解することができるのか”という『ブラインドサイト』の主題を強調し、われわれに疑問を投げかけてきます。

・多様(異様?)なキャラクター(たち)
四重人格の言語学者、感覚器官を機械化した生物学者、平和主義者の軍人、これらでも濃いのに、脳の半分を失った男、極めつけには吸血鬼までが登場する。これほどまでに多様な登場人物がいる作品はなかなか無いのではなかろうか?かえって個性のバランスが良く整っているようにも思えてくる。実際読み進めると、吸血鬼の親和性に驚くはず。また、登場人物それぞれの個性と行動が「意識」への議論を補強し無駄になっていません。

『ブラインドサイト』は上・下に分れているのですが、下にまでなんとかたどり着ければ本作で最も面白い部分である、作者の狂ったような参考文献と注釈、テッド・チャン氏の解説が読めるので上と下を同時に購入し、逃げ道を無くしてから読むのをオススメします。
続編の和訳本『エコープラクシア 反響動作』がついに出版されるので、読むなら今かと思われます。
あっそうでした、あけましておめでとうございます。

リレーブログ2016年度第12回『人間椅子 江戸川乱歩ベストセレクション(1)』(江戸川乱歩著)担当:俺氏

「フェチズム」にふさわしい本とは?
江戸川乱歩の『人間椅子』だと今日は答えてみます。
江戸川乱歩といえば大正・昭和に活躍した小説家。代表作『怪人二十面相』をはじめとして、数々の推理小説を生み出した作家です。日本のミステリー小説を語るには決して外せない人物でしょう。
そんな江戸川乱歩、実は怪奇幻想小説の書き手としても一流なのです。今回紹介する『人間椅子』には、そうした物語だけが8本収録されています。その中のいくつかを3つのキーワードでまとめて書き記します。

・フェチズム
フェチズム(フェティシズムの略)とは、異性の衣服や身体の一部などに価値を見出し執着することです。「人間椅子」では自作の椅子の中に潜み、腰掛けた女の肉体を皮越しに感じ、密かに恋い焦がれたと告白する男が出てきます。また、「押絵と旅する男」では押絵の女に一目ぼれした男が、「鏡地獄」ではレンズと鏡を駆使し不可思議な世界を作り出す男のことが描かれています。他人には無価値なものに心を奪われ、理解できない妄執を抱く。彼らは欲望に呑まれていながら純粋で美しく感じます。

・過去語り
この本では、登場人物がかつて体験した事件を語りだすという形式がほとんどの作品で使われています。彼らの昔話はどれも信じがたく、そんな訳ないだろうと思わず言いたくなってしまいます。事実彼らの言葉を裏付ける証拠はありません。それでも納得させてしまう不思議な説得力が彼らの言葉にはあります。

・奇抜な発想
妻に失恋し自殺。眠りながらの強盗殺人。自宅の押入れで呼吸困難。作品全てが意外性に満ちています。死後数十年経っても色あせない江戸川乱歩の独創性がこの一冊に詰まっています。

『人間椅子 江戸川乱歩ベストセレクション(1)』(江戸川乱歩著 角川ホラー文庫)
収録作品:人間椅子、目羅博士の不思議な犯罪、断崖、妻に失恋した男、お勢登場、二癈人、鏡地獄、押絵と旅する男

リレーブログ2016年度第11回『痴人の愛』(谷崎潤一郎著)担当:K

 FSMのどのカテゴリーにも属さない本を読むことが多く、毎回どの本を紹介すればよいか毎度悩む。そこで例年、直近読んだ中からキーワードに近いものをこじつけ気味に選ぶのであるが、今回は直近のものがぴったりであったため、すぐさま採用した。二つ前の芥川を見て、自分も純文学のような作品を紹介したい、と感化されたのは内緒だ。

 純文学を他の作品から区別する上で、「大衆小説に対して「娯楽性」よりも「芸術性」に重きを置いている小説」(Wikipediaより)かという指標があり、その点から見ると、終始フェチズムを全面に押し出した本作は、後期の作風とは異なり、娯楽性が強いようにも読み取れる。しかし、時代背景のよく表れた文字遣いや、素描のような文体にも関わらず、現前したかのように移りゆく心情の変化は、芸術という他に形容し難い。著名な作品であるため、あらすじは敢えてここには記さない。未読の方は、以下のキーワードから汲み取っていただければと思う。

・成長物語
 前回より引き継いだキーワード。本作は、主人公の会社員がカフエエで目をつけた十五才の少女を自分好みに育てようと試みるも、甘やかすうちに肥大してゆく彼女のエゴを持て余し、次第に手に負えなくなっていく話である。ヒロインのナヲミが成長する様が描かれているが、その様変わりぶりたるや、もはや変貌といえるかもしれない……。

・地元
 この本を読むきっかけは友人からの紹介だったが、奇しくも物語の舞台となる大井町や大森は、私の実家のある地域であった。小説を読む中で自分の見知った場所が唐突に出ると、ドキリとすると共に、どことなく親近感を覚えてしまうという経験はないであろうか。都心近郊に出向く機会が多いため、そういった経験が人より多いのかもしれないが、きっと一度はあのこそばゆさを味わったことがあるのではないか。

・フェチズム
 この作品において最も印象に残るであろう、特徴的な部分がここだ。肢体や香気から五感をくすぐる描写がふんだんに盛り込まれている点も特筆すべきであるが、とりわけ頻繁に表現されているのが足についてだ。これは逐一挙げればきりがないが、気になった方は是非手にとって一読いただきたい。

リレーブログ2016年度第10回『膚の下』(神林長平著)担当:垣野

 どうにも最近はドンパチばかりの冒険小説ばかり読んでいるせいか、芥川のあとに何を引き継げばいいのか迷いに迷いに迷った。少女と言われても、此処最近読んでいるのはオッサンが殴り合うのばかり。風景描写と言っても、某国の某所で如何ように死闘を繰り広げるかとかそんなのばかり。実に迷った。
 それからいろいろあって本棚に相談してみた。すると最終的に彼が出して寄越したのは、敬愛する神林長平御大の『膚の下』だった。火星三部作の完結編にして、神林作品の中でも最高傑作との呼び声も高い本作。いまさら語るまでもないが、ここは一つ語らせてほしい。

われらはおまえたちを創った
おまえたちはなにを創るのか

 このエピグラフから始まる本作は、火星三部作の第一弾にして神林長平初の長編小説である『あなたの魂に安らぎあれ』の前日譚である。ゆえに、もちろん『膚の下』だけでもじゅうぶん面白いのだが、まずは『あなたの魂に安らぎあれ』を読んでからこちらを読んでほしい。そのほうが、感動が二割、三割……いやもっと増し増しだ。
 主人公の慧慈は、アートルーパーと呼ばれる人造人間。彼らアートルーパーの任務は、地球人が火星で冬眠する間、地球の復興作業にあたる機械人たちを監視すること。人間でも機械でもない慧慈は、軍での訓練、地球残留派との交戦、少女や部下との出会いを経て成長していく……。

・少女
 前回より引き継いだキーワードがこれだ。慧慈とある少女との出逢いが、この物語の根幹に関わると言ってもいい。人間たちは機械人を見下し、またアートルーパーも人造人間であると見下す。あくまでも彼らは人間の被造物であり、それ以上でもそれ以下でもない。膚の下に流れるのは、同じ赤い血であるにも関わらず……。
 そんな苦悩を抱く慧慈は、火星に冬眠予定のある少女と友情を育む。人間たちは、火星で長い眠りに着く。そのあいだ、アートルーパーたちは人間の代役、機械人の監視役として地球に残る。もちろん人間が地球へと戻ってきたころには、もう慧慈たちは死んでしまっている。
 そこで慧慈は少女とある約束をする。日記をつけ、それを残すこと。そして少女が地球へと戻ってきた時、彼女はそれを読むことで慧慈を思い起こすことだ。アートルーパーは人間のように遺伝子を残すことは出来ない。しかし、物語ることは出来る。神林長平らしい切り口で『創造』というキーワードが少女との関係に如実に表されている。

・成長物語
 本作は、徹底して主人公慧慈の成長物語である。訓練時代の教官達と過ごした日々に始まり、実際の戦場で残留派のテロリストと相対し戦場を経験、そして機械人と出会い、仲間たちと出会い……。やがて最後には、地球を託された者として慧慈の決断が迫られる。
「われらはおまえたちを創った おまえたちはなにを創るのか」
 まさしく冒頭のエピグラフが示す通り、人間によって作られたアートルーパーは何を生み出すようになるのか。物語の根幹はそこにある。
 これは成長物語であると同時、かつまた一人の兵士が創造主となる物語。一種の聖書とも言うべき作品である。

・分厚い!
 文庫本でおよそ600ページ近いもので、しかも上下巻! 分厚い!
 しかし、それでも飽きないのが『膚の下』だ。前述の通り、この小説は言わば聖書である。人間という創造主に生み出された慧慈は、成長し、彼もまた創造するようになる。それまでの長い旅路を追う聖書だ。
 火星三部作の『あなたの魂に安らぎあれ』、『帝王の殻』を含めれば更に長い旅路となるが、しかしその先に待つのは他には代えがたい感動だ。現に私も読後、涙をこらえるような思いだった。
 火星三部作という壮大な世界の、更にその下敷きを創造した一人の人造人間の物語。読み応えは抜群。神林御大の最高傑作に違いはない。

リレーブログ2016年度第9回「蜜柑」(芥川龍之介著)担当:南波

まず更新が大変遅くなってしまったことをお詫びしなければなりません。大変ご迷惑をおかけてしました。言い訳ですが、少し体調を崩しておりまして…気候が安定してませんので体調には気をつけなければなりませんね。さて、お初にお目にかかります。今年度より当サークルに所属させていただくことになりました南波と申します。とは言っても新入生ではないのでオールド・ルーキーですね。
こういうものを書かせていただくのは初めてな上、昔から文章を書くのは苦手でありますが広い心で眺めていただければ幸いです。

私が紹介させていただくのは芥川龍之介の蜜柑です。教科書に載っていたこともあるそうで、芥川の代表作品の1つである短編小説になります。
芥川龍之介は知らぬ人はいない日本を代表する小説家です。1914年に「老年」を発表しデビュー。その後は「羅生門」や「蜘蛛の糸」,「藪の中」などの代表作を生み出します。著書は短編小説が殆どを占めます。長編も挑戦したことはあるそうですが完成には至らなかったようです。そして1927年に自殺。35年の人生でした。
今では殆どの著作が青空文庫で読むことが可能で、私も今回扱う「蜜柑」は青空文庫で拝読させていただきました。

あらすじ
ある曇った冬の日暮れのこと。二等客車の隅に腰を下していた私は披露と倦怠を抱えて発車を待っていた。やがて発車の笛がなると私の乗る二等客車に13,4歳の田舎者らしい小娘が入ってきた。私は小娘の顔や不可解な行動に不快感を持っていたのだが、その後の出来事に私は彼女の行動の一切を了解し、その光景を心に焼き付けることになるのだった。

1.カラフルな発想
前回からの引き継ぎワードです。カラフルと聞いた時に真っ先に私の中に浮かんできた作品がこの「蜜柑」でした。ただし、ここで扱うカラフルというのは前回の意味合いとは少し違って色彩的な意味合いになります。というのもこの作品には「煤を溶かしたようなどす黒い空気」「一旒の白い旗」「気持ちの悪いほど赤く火照らせた」など色彩を表現する部分が多く見られます。まるで主人公の心情と呼応しているかのように小気味悪い色合いですが、だからこそ最後の大切なシーンで「鮮やかな蜜柑の色」が強調されて、私達の心に強く焼き付いてくるのだと思います。

2.少女
物語において少女は様々な印象を読者に与えます。神秘的,不思議,不気味,儚さ…。私は少女にフォーカスした作品が好きなのですが、この「蜜柑」でも少女が全体を通して大きな役割を担っています。作中では「油気のない髪をひっつめの銀杏返しに結って、横なでの痕あとのある皸だらけの両頬を気持の悪い程赤く火照らせた、如何いかにも田舎者らしい娘だった」とされていますので、どちらかといえば不気味な雰囲気も感じると思いますが、それでも最後まで読めば儚さのようなものも深く感じることが出来ると思います。そして私達も少女を別人のように意識してしまうのです。

3.風景描写
2つのワードのまとめのようになってしまいますが、この作品は描写がとても鮮やかで直接的に登場人物と繋がってきます。「夕刊の紙面に落ちていた外光が、突然電燈の光に変って、刷すりの悪い何欄かの活字が意外な位鮮やかに私の眼の前へ浮んで来た」「 隧道へはいった一瞬間、汽車の走っている方向が逆になったような錯覚」など、月並みな表現になってしまいますが、特に恰好良い。もちろん恰好良いだけではなく人間の感覚的な表現になっていますので、とても想起しやすく感じ取りやすいです。また、最後のシーンは少女を含めて奇麗な1枚になっております。「鮮やかな蜜柑の色」と「小娘」が色彩豊かに心の上に焼き付かれます。そしてその光景を感じ取れたならば、主人校と同じく喧騒極まりない現実を束の間だけ忘れることができるのではないでしょうか。

3ワードは以上になります。私個人的な読み方になりますが、この「蜜柑」はストーリーよりも雰囲気を感覚的に楽しめる作品でした。夕刊の紙面の内容などから当時の時代感を汲み取ることが出来ますが現代人においても主人公と似た感覚は持っていると思います。「云いようのない疲労と倦怠とを、そうして又不可解な、下等な、退屈な人生」などの部分などは鬱的な現代の若者にはしっくりくるのではないでしょうか。なので主人公と自分をどうにか上手く重ねて読んでみれば、より強く雰囲気を感じることが出来ます。是非読んでみてください。
ちなみに私の個人的なお気に入りは主人公が煙草に火をつける場面です。恰好良い。

芥川龍之介の経歴の参考はwikipediaより、あらすじの参考と本文の引用は青空文庫「蜜柑」より行っております。

リレーブログ2016年度第8回「大きな森の小さな密室」(小林泰三著) 担当:坂口

初めまして、新入生の六番目として今回のブログを担当する坂口です。新入生の皆さんが素晴らしいリレーブログを書いていらっしゃるので自分もなんとか好きな本の魅力を1%でも多く伝えられるものを書けたらなと思います。

さて、今回紹介させていただくのは小林泰三の「大きな森の小さな密室」です。小林泰三はミステリやSF、ホラーまで様々なジャンルの本を出している作家です。私の好きな作家の1人である小林泰三に興味を持って貰うための一歩として著作の中でも読みやすいミステリー短編集を選びました。

[1]個性豊かな登場人物(前回からの引き継ぎワード)

この本は7つの短編から成り、それぞれ犯人当て、倒叙ミステリ、安楽椅子探偵、バカミス、??ミステリ、SFミステリ、日常の謎というテーマがあります。それぞれの話の探偵役として警察からマッドサイエンティスト、更には殺人鬼等々一癖も二癖もある面々が読者を待ち受けています。

[2]カラフルな発想
短編集の良いところとして一冊の本で複数の世界観を味わえる点があります。
表題作の大きな森の小さな密室は犯人当てをテーマにした作品です。この話では森の奥深くで起こる密室殺人を解きます。密室なんてミステリでよくあるパターンじゃないか、と思ったあなた。きっと作者独特の着眼点によって描き出される物語に驚くこと請け合いです。
他にも死亡推定時刻が百五十万年前というまさにバカミスと言わんばかりの設定が光る更新世の殺人等多岐にわたるジャンルで活躍されている作家らしい色とりどりの世界が広がっています。

[3]意外な結末
ミステリとしては大切なオチの部分ですがこの本でもどの作品もそうきたか、と思える作品ばかりです。作者の斬新な発想から生み出される個性豊かな登場人物達が描く物語はあなたの想像を遥かに越えると思います。

以上、小林泰三「大きな森の小さな密室」の紹介でした。

小林泰三はいくつか短編集を出しており、この本に登場する探偵が出てくるものもあります。この本を読んで面白いと思った人には他の短編集もオススメです。
大学では秋学期の履修が始まり前期よりも面倒く……やりごたえのある授業になったなぁと感じます。中々本を読む時間が取れない人もいるかと思いますがそんな時はこの本のように1話区切りでサッと読める短編集はいかがでしょうか?

リレーブログ2016年度第7回 「神去なあなあ日常」(三浦しをん著) 担当:富田

皆様初めまして、新入生五番目としてブログを書かせていただく富田です。このサークルでは幻想文学やミステリーが多いようですが、普段私はほのぼのとした小説を読むことが多いです。時々ミステリーやクセのある本を読む感じです。なお、文章力が低い上にブログというものを書いたことが無かったため、他の方と同じような文章構成になっているかもしれませんが、温かい目で読んでいただけると幸いですm(__)m

今回紹介させていただくのは、三浦しをんの「神去なあなあ日常」です。読もうと思ったきっかけは、この本の続編の「神去なあなあ夜話」が文庫化しました! という電車のドア広告を見たからです。つまり大分過去に出版された本ですがご了承ください。
この本のテーマはズバリ「林業」です
。主人公の平野勇気は高校まで勉強をろくにせず、高校を出たらフリーターで食っていこうと考えていた矢先、突然母から「就職先が決まったからここで住み込みで働け」と言われ、荷物と住所の書かれた紙を渡されて家を追い出されてしまいます。仕方なく就職先に行きましたがそこは三重県の林業の現場だった!……
これ以上は、ネタバレになってしまうかもしれないのであらすじ紹介はここまでにします。

[1]専門的知識を練り混ぜたストーリー(引き継ぎワード)

やはり主人公が林業に奮闘する様子を描く上でその専門知識は重要になってきます。省いてしまうこともできますがそれでは林業の魅力は伝わらないと思います。木の伐倒の仕方や木の登り方など、思わずへぇーと言ってしまうことがあるでしょう!

[2]個性豊かな登場人物

この本の魅力はなんといっても登場人物の面白さです。村一番の力持ちや普段はじっとしているが、いざというときに素早く動いて主人公を助けてくれるおばあちゃん、いつものんびりとしている村民、などなど様々な人物がひしめいています。登場人物同士のやり取りは非常におもしろいです。

[3]これぞ、日本の田舎

この本の舞台の神去村は、実在しない村ですが、日本の田舎らしいと感じました。まず「なあなあ」というのは、この村独自の方言であり「のんびり行こう」「元気ですか?」などのいくつもの意味を兼ねているので大変便利です。ですが都会では絶対使えないでしょう。
また、この村は携帯電話が通じず、インターネットも入っていません。とても不便で退屈な日々だと思われるかもしれませんが、都会にはない大自然が広がっているので毎日心が癒されるでしょう。

最後まで読んでいただきありがとうございました。続編もありますが物語の矛盾を防ぐためにも「~日常」から読むことを強くおすすめします。
東洋の夏休みももう終わりです。また単位のことを考えていかなきゃならないと思うと悲しい、でもそんな悲しみを読書で吹き飛ばそうと思います。

リレーブログ2016年度第六回 「へんないきもの三千里」(早川 いくを著) 担当:紫田

皆さまはじめまして、新入生四番手を務めさせて頂く紫田です。普段から、随分と偏った本しか読まないために、今回のリレーブログでは随分と苦悩したので、今後は幅広いジャンルの本を読んでいこうと思います。なお、稚拙な文章で誠に恐縮ですが、長い目で見てください。

今回ご紹介させていただく本は、早川いくをの『へんないきもの三千里』という本です。この作家さんは『へんないきもの』という、実在する奇妙な生き物を紹介する本で大ブレイクした方で、本書はそのテーマで小説化したものです。斬新な表現で、ストーリーを進めるので正直笑いが止まらなくなる。

あらすじ
生き物がきらいなオシャレ大好き少女芦屋ユカリは、己の恋を実現するために、おまじないでカエルを舐めた。すると気が付くと異世界に飛ばされて、様々な奇妙な生き物と遭遇していくのである――

[1]現実の昇華としてのフィクション(前回の引継ぎワード)
この物語はフィクションであるのは当然としても、この物語で描かれる生き物たちの掟はフィクションではない。強いものが弱いものを食らうという弱肉強食という構造があり、または体を変化させることでたくましく生きる生物がある。そのような世界に、一人の少女が入り込むという物語は、道具を発達させることにより生態ピラミッドの枠から抜け出してしまった人間に対して、問題を提起させるのではないだろうか。

[2]何だ、これは!
別段作品中に岡本太郎が出てくるわけではないが(岡本太郎が創造したのではないか思わせる生物はたくさん出てくる)、本書籍、及び早川いくをの著書を読むと思わずそう言いたくなる。先述のとおり早川いくをの作品は、斬新で奇抜な表現と物語で攻めてくる。読み進めていくと、この先の展開が気になってしょうがなくなるうえ、衝撃と笑いも止まらなくなる。

[3]専門的知識を練り混ぜたストーリー
ランプシリス、パロロ、ウシナマコ・・・等々、まるで聞いたことのない生物名やその生態が、本書籍ではごく当たり前に出てくる。しかしながら、独特の文章によって読者に対して難解さを持たせなくしているので、逆にこうした専門的知識を練り混ぜた構成が物語の面白さを際立たせている。

以上が「へんないきもの三千里」のご紹介でした。この本以外にも、「へんないきもの」「またまたへんないきもの」などがありますので、読書の秋にどれか一冊手を伸ばしてみたらいかがでしょうか。