リレーブログ2016年度第5回目「リアリズムの闇と光」(H・クライスト著/種村季弘訳)担当:ナリエ

幻想文学研究会新会長のナリエです。
一月振りの更新となります。会長就任早々リレーブログをすっぽかすという暴挙に出たことにつきましては、まことに申し訳ありませんでした。反省はしている。今月からまた会員の皆様と協力しつつ更新してゆく所存です。

今回お薦めさせて頂くのは、河出文庫から刊行のハインリヒ・フォン・クライスト著『チリの地震』です。
『クライスト短篇集』と打たれた副題の通り、ドイツの作家H・クライストの作品集となっています。クライストは夭折、また本業文学者ということもあり、残した作品の数はそれほど多くありません。だからこそ、当短編集はクライストに接近しようという読者にとって価値のあるものとなるでしょう。
収録内容は表題作を含め『聖ドミンゴ島の婚約』、『ロカルノの女乞食』など前八篇。表題作でもある『チリの地震』に特に注目してご紹介したいと思います。

【あらすじ】
醜聞によって引き裂かれたチリの一組の恋人たち。女は死刑の執行、男は絶望から自殺を遂げんとしていたまさにその時、未曽有の大震災が街を襲う。大勢の人々が命を落としたこの災害で、二人は皮肉にも死を免れることになるが……。

1.【残酷】
前回から引き継いだキーワードになります。
『チリの地震』にはクライストならではの乾いたリアリズムが通っています。
ヒロインのジョゼフェは、修道女でありながら主人公ジェローニモの子を身ごもったことで極刑を言い渡されます。これは作中で「神への不敬」とされますが、実際には人の法によって定められた罪に他なりません。一方、震災は人の手の及ばない神の采配の領域と言えます。震災という不幸によって辛くも命を救い、再会を果たした二人の愛は「天に許された」ものだと見なすことが出来る一方、人々は奇跡に免じて二人を許したりはしないのです。
二人の迎える結末は、人間の残酷さをここまで無慈悲に描き出した作品もそうないと思えるほどです。

2.【現実の昇華としてのフィクション】
『チリの地震』は17世紀にチリのサンティアゴで実際に起きた震災を元としています。内容は完全なるクライストの創作であり、実際の震災の模様とは異なる部分も多々ありますが、この出来事が作品にインスピレーションを与えたことは間違いありません。クライストは地震の恐怖や混乱というものが人々の真の姿を描き出すのにうってつけだと考えたのかも知れません。
このような実話を元としたフィクションは、完全なるフィクションともドキュメンタリーとも異なり、独特な立ち位置を獲得しています。それは「現実」の作者なりの解釈であり、答えとしての小説なのでしょう。しかしクライストの小説が優れているのは、飽くまで淡々と物語を描くことで、それを押しつけがましく感じさせないところです。そして、この小説に対する感想は、当然ながら個々の読者に委ねられています。

3.【トゥルーエンドの物語】
クライストの作品は必ずしもハッピーエンドと言えるものばかりではありません。むしろ、苦い後味を残すものが大半でしょう。しかも因果応報など自身の業によるのではなく、不条理に翻弄され、しかも何の救いもないといったものまで見受けられます。その傾向は『チリの地震』や『拾い子』などに顕著です。
しかし、クライストのストーリーテリングはお涙頂戴の悲劇というわけでも決してないのです。人々を泣かせたいがための強引なトラジディというものも、世の中には存在します(残念ながら)。クライストの小説にそのような無理は見られません。むしろなるべくしてこうなった、と思わざるを得ないようなリアリティが感じられます。ハッピーエンドではなくとも、トゥルーエンド。彼の作品に闇を見出すか光を見出すかは、読み手の感受性次第です。

以上で『チリの地震』の紹介を終わります。
8月の真夏日、猛暑日には無理に外へ出ずとも、家の中でゆるりと読書などして過ごしましょう。無論、屋内だからと言って水分補給は怠らず。

リレーブログ2016年度第四回 「密室殺人ゲーム王手飛車取り」(歌野 晶午著) 担当:野島

皆さま初めまして新入生の野島と申します。三回連続での新入生でのブログ更新ラッシュ、三番目の刺客として選ばれた私ですが、文章力としては道端にいる経験値稼ぎにすらならない雑魚のような実力なので、皆様としては多少の物足りなさを感じるかもしれませんがどうぞ寛容な心でご覧ください。

さて今回紹介させていただくのは、歌野晶午の『密室殺人ゲーム王手飛車取り』です。今絶賛マイブームの作家さんである歌野さんの作品です。多分知らない方も多いんじゃないかと思ったので、是非とも読んでもらいたいと思い紹介させていただくことにしました。

あらすじ
この作品に出てくる5人の登場人物は、ネット上で殺人推理ゲームの出題をしあう。ただし、ここで出題される殺人事件はすべて、出題者の手で実際に実行済みの現実に起きた殺人なのである・・・

[1]読者を翻弄するトリック(引継ぎワード)
まさかの連続引継ぎワードとして選ばれたこの「読者を翻弄するトリック」ですが、作者である歌野さんはこの手の手法を得意としているのでしょうがないですね。ハイ
作品序盤から作り上げてきた自分の想像を終盤で見事に裏切られる衝撃はかなりのものです。私は歌野さんがこのような手法を使っていることを知ったうえで読んだのですが、見事に騙されてこの衝撃を受けました。

[2]残酷
あらすじにも書いてある通り、この作品で扱われる殺人事件はすべて登場人物が実際に実行した事件です。これだけでも十分残酷なんですが、登場人物たちはだんだんと高い難易度、強い刺激を求め、出題される事件の内容はどんどんエスカレートしていきます。

[3]ネット
この作品はほとんどがネット上のやり取りを書いたものとなっていて、そこでの情報のやり取りなど、ネットの便利さが垣間見えます。そして、お互いがお互いのことを知らないまま話を進めることができるというのも、この話で重要になってくるポイントです。

さて、私の文章力はいかがでしたでしょうか?あまりになさ過ぎて絶望している方もいらっしゃるかとも思いますが、今回私が紹介した『密室殺人ゲーム王手飛車取り』は本当に面白いので是非とも読んでいただけたらなと思います。そしてこの作品が気に入っていただけたのなら、歌野さんのほかの作品もぜひ読んでいただきたいと思います。
ちなみにこの作品、『密室殺人ゲーム2.0』と、『密室殺人ゲームマニアックス』という続編が出ていますのでそちらも楽しんでいただけたらなと思います。
ありがとうございました。

リレーブログ2016年度第三回 「イニシエーション・ラブ」(乾 くるみ著) 担当:清水

皆様、初めまして。新入生の清水と申します。入学して既に2ヶ月以上が経過し、そろそろ授業のルーチンに慣れ、大学構内での移動に困らなくなってきました。6月も半ばなので、関東地方は梅雨入りしましたが、傘を差さずとも、濡れずに移動できるようになった事実に感動しております。
このリレーブログ、前回分を同じ新入生の上田君が素晴らしい物を書いてくれたので、震えながら文章を考えている次第です。あまり余計な話をしているのもアレなので本題に入ります。
今回紹介させていただくのは、乾くるみ『イニシエーション・ラブ』。リレーブログのために翻弄されそうなトリックを用いたミステリ本を探していたら目に入ったので手に取ることにしました。本を手に取った時の率直な感想としては、タイトルと表紙のイラストだけ見ると恋愛小説かな?ということです。読み進めると実際その通り。終わる直前までは。最後まで読めばミステリと言われている理由がわかります。同書はミリオンセラーを達成し、2015年には映画化もされたようで、流行っていたらしいです。私、完全に流行に乗り遅れていますね。ちなみに、私が読んだのは文春文庫版。解説が最後についているので、単行本ではなく文庫版がおすすめです。

あらすじ
主人公の鈴木は男子大学生。数合わせとして参加した合コンで運命的な出逢いをし、成岡という女性と恋に落ちる。鈴木が就職してからも交際を続けていた二人は、仕事や家庭の事情で離れ離れになってしまい、遠距離恋愛となってしまうが、鈴木が勤務先が同じ女性である石丸に惹かれて二股をかける。やがて不注意からそのことが成岡にバレてしまい、二人は破局を迎える――

……というのがあらすじです。しかし、このあらすじにはフェイクが入っています。いやーネタバレ防止って難しい。

[1]読者を翻弄するトリック(前回からのリレーワード)
これがいわゆる叙述トリックか、という形でまんまとハマってしまいました。決して複雑ではないんです。でも、読んでいる途中になんか変だなとひっかかる部分を最後で一気に「あーそういうことか!」と言わせるようになっています。私はあまりミステリを読まない(読む時もトリックを考えながら読まない)ので新鮮でした。ネタバレが怖いのでトリックの中身は書きませんとも。ええ。

[2]酒
主人公の鈴木は目立つ方ではない、おとなしい人物なのでウェイな飲み会はあまり好きではありません。でも不思議と酒を呑むと人が変わったように暴れるようになってしまうんですね。酒で性格が変わる人は結構いますよね。そして酒が入っていると恋愛に発展しやすいのも事実らしいです。あーお酒怖いなー。

[3]怖い女性
あらすじには書きませんでしたが、鈴木が浮気した女性の石丸は、彼に付き合っている女性がいると知った上で、ひたすらに誘惑してきます。直接に別れてしまえとは言ってこないにも関わらず、上手に外堀を埋めていくしたたかさは見事です。

あまりまとまっていませんね。でも、これでいいんです。読めば僕が何を考えてこのキーワードを挙げたのかがわかるはずです。これ以上なにか書けばそれがすぐにネタバレに繋がる。それだけ上手に文章と物語が組み上げられているのが、今回紹介した『イニシエーション・ラブ』です。「必ず二回読みたくなる」と煽られているだけのことはありますよ!

リレーブログ2016年度第二回 「箱男」(安部 公房著) 担当:上田

 はじめまして。めでたく新入生になり、なぜアルバイトをし始めたのか自問自答中の上田です。この新天地での4年間が自分をどう育てるのか不安でありつつ、楽しみでもあります。ちなみに現在は「そうだ、富士の樹海に行こう(白目)」ぐらいには大学生生活を楽しんでいます!1年トップバッターの責に背骨が粉砕骨折する気持ちで手に脂汗を握りながら書かせていただきます。多少の「何言ってんだお前」感はトイレにでも流してください。
 このブログの説明は前回に先輩にやっていただいているので、さっそく作品紹介に移らせてもらいたいと思います。今回紹介させてもらうのは安部公房の「箱男」です。この作品は昭和48年3月に新潮社より刊行されました。内容を完全に理解しているとは言い難く、その方面の研究者の方からは「青二才が吹いてんじゃねえよ(笑)」みたいなお叱りが飛んで来そうな気がしますが、そこは笑って流して下さい。この箱男という者の存在は、僕らの内に存在する欲求である、謂わば「監視欲」というものを実にわかりやすく表現していると思います。箱という他とは隔離され、安全が保障された空間において誰かの、もしくは何かの個別的情報を一方的に監視する、もとい覗く。これを単なる情欲、又は好奇心の発露と結論付けるのは早計であるように思います。出発点はそうであれ、決して終着点もそうであるとは言い切れないからです。これは本当にざっくりですが、物語の上では欠かせない事柄です。
 
あらすじ
 段ボール箱を頭から被り、帰属を捨てた放浪者がその箱に開けた窓から見た風景とは、そしてその行き着く先とはーーー

[1]風変わりな設定 ※引継ぎワード
 安部公房氏の特徴と言っていいほどの独特な世界観から生まれた設定。複雑というより「闇」です。箱という物から外界とは隔離された「メビウスの輪」という発想とその設定、箱男という者の存在の源、現実を舞台にしているのにフワフワする浮遊感、複雑な感情模様。これを全て理解するのは至難の業だと思います。言い方は悪いですが、もはや「変態的」といっても過言ではありません。脳みそをグチャグチャにミキシングしたいという方にはおススメです(しかし同氏の著作では『屋上から落ちたら棒になってた』や『精子いじって時間を巻き戻す』があるため、抵抗がつくとそうでもなくなる)。

[2]不在 
 箱男は帰属する場を捨てた者たちで、いわば「いない」者たちです。作中では存在証明ならぬ「不在証明」だとか。「ないもの」は都会に住む者たちには認識されない。思考に入り込むことすらないないのです。しかし一度箱男への羨望に憑りつかれ、「他ではなく、自分への帰属」を見出したならばそのものは存在を捨て、不在となる。また安部公房氏は『デモクラシーをとことん突き詰めれば皆箱男となる。』と言います。国家というものに帰属しつつも、最終的には自分にしか帰属する場はないということに気づけば人間は他の帰属場所を捨てるということでしょうか。

[3]読者を翻弄するトリック 
 正直に言うと自分は3分の1も理解していません。ウィキペディアを片手に読み進めたため、この考察も少なからずその影響を受けています。ですが、それを抜きにしても次々と襲ってくる時系列の荒波、場面転換、人物転換、そしてそこから生まれるトリックは読者をこれでもかと揺さぶってきます。恐らくほとんどの人が「ははーん?こいつ理解させる気ねえな?」と思ってしまうかもしれません。そこが難所でもあり、味でもあります。一回ハマるとクセになるでしょう。

 以上で終わりとなります。間違いなく紹介しきれておらず、魅力も伝わってないのは察しており、また全くの見当違いの意見もあることは了解してはおります。ですが、この作者なら仕方ないよね、の様な感じで流していただけると幸いです。さらに公房チックな世界が欲しいというガンギマr…コアな方には「R62号の発明・鉛の卵」をおススメします。是非どうぞ。

リレーブログ2016年度第一回「ルパン+ホームズ=怪盗ニック・ヴェルヴェット!!」(エドワード・D・ホック著、 木村二郎訳『怪盗ニック全仕事1』)担当:鈴木

 5月も半ばになり、蒸し暑い日が多くなってきました。この調子だと今年の夏も覚悟しないといけませんね。こんにちは、2年の鈴木です。今年度最初のリレーブログなんて大層な役をまかされて、かなり緊張しています。拙い文になるかと思いますが、どうか温かい目で見てやってください。
 今回は初回ということなので、まずはリレーブログについての簡単な説明をします。リレーブログは会員がオススメの本を3つのキーワードを使って紹介していくというもの。その3つのキーワードの内の1つは前任の会員が使ったものから引き継ぎます。但し、前任の会員がさらにその前の会員から引き継いだものは選べません。つまり、ずっと同じキーワードを引き継ぐことはできない仕様になっています。この説明ではわかりにくい、と感じられた方は昨年度のブログを順に見ていただければ理解しやすい筈です。
 さて、話すべきことも話し終えたのでここからは本題の方に入っていこうと思います。今回紹介するのは『怪盗ニック全仕事1』。著者はエドワード・D・ホック。数々のシリーズ物の短編ミステリで有名なホックですが、その中でも特に人気の高いニック・ヴェルヴェットシリーズの文庫版全集第1巻です。

あらすじ
 ニック・ヴェルヴェットはプロの泥棒だ。依頼料は2万ドル(場合によっては3万ドル)。ただ普通の泥棒とは違って、宝石や高価な美術品なんてものは盗まない。ニックが盗むのはおよそ金銭的に価値のないものもしくは誰も盗もうとはしないもの。看板の文字であったり、プールの水だったり。ニックはそれらをどうやって盗み出すのか。そしておかしな依頼に隠された本当の目的とは…。

【1】風変わりな設定
 普通泥棒と言えば金や宝石などを盗むものですが、ニックが盗むのはそれとは正反対のものばかり。ですが誤解してはいけません。価値がないからといって盗みが簡単、というわけではないのです。警備の厳重な博物館や刑務所からだって盗みますし、プロ野球チーム丸ごとやプールに入っている水全部など盗みの対象自体がとんでもないケースもあります。そしてそれらを盗む方法も奇抜で大胆。盗むものに価値がないからといって面白さが無くなるわけではないので、安心してください。

【2】常に謎は潜む
 盗みの面白さはもちろんですが、それだけではないのがニックシリーズの魅力の1つ。一見価値のないものを盗ませようとする依頼主達ですがそこには必ずと言っていいほど裏があり、短編ミステリの名手ともいわれるホックの腕の良さが遺憾無く発揮されています。

【3】魅力的な世界
※前回から引き継いだキーワードです。
 ニックは依頼のためならアメリカだけではなくイギリスやカリブ海に浮かぶ島国など、世界のあらゆる場所へ向かいます。そこではニックの邪魔をする刑事やマフィアまで登場して、もはや泥棒ではなくスパイのような活躍ぶりです。
 そしてそんなニックがこれまたかっこいい。顔はいかついながらもハンサム。身長は約183㎝と体格もいい。歳は40近いが若者でもできないような離れ業もこなしてしまう。この情報だけでも十分かっこいいですが、それに加えてニックの格好良さはセリフの端々からも滲み出ています。またグロリアというガールフレンドもいて、普段は家のポーチでビールを飲みながら一緒にくつろぐという理想をつぎ込んだような生活を送っています。うらやましい限りです。こんな二重生活なら1度だけでも経験してみたいものですね。

 以上で本の紹介を終わります。『怪盗ニック全仕事』は5月現在で2巻まで、3巻目は6月に発売予定です。また他のホック作品では、齢2000を超えるオカルト探偵が登場するサイモン・アークシリーズや不可能犯罪のみを扱ったサム・ホーソーンシリーズなどおすすめです。気になるという方は是非どうぞ。

冬コミ、おつかれさまでした。

サナギトウカです。

冬コミはつつがなく……とは行きませんでしたが、終わりは予想もしないかたちで訪れました。
そう、持ち込んだ25部すべてが売れたのです。それも、設営から二時間も経たない午前中のうちに。
おいちょっと去年のSF研は10部も売れなかったって聞いたんですけどお?
ことの経緯をダイジェストで説明すると、以下のようになります。

【「俺氏、サークルゲート入場に間に合わず最後尾スタート」→ 「先着していた会員に謝り倒して設営(10:40)」→「お隣さんにアイサツ」→「さあてどうなるかな、と時間潰し用に持ってきた本を引っ張りだす」→「瞬く間に完売(12:01)」→「は?????」】

うん、どういうことだこれ。
ともあれ、そういうわけで準備に数ヶ月かけた当会誌は瞬殺されたのでした。あとからやってきて購入できなかったかたには、こちらの想定の甘さが招いたことで、たいへん申し訳ありません。次回以降のイベントで増刷をかける予定ですので、どうかそのときまたよろしくお願いします。その際に告知をかけますので、これに懲りずによろしくお願いします。

それにしても、なぜこんなに売れたのかいまだに疑問です。たしかに表紙は絵のうまい方に外注したし、判型も読みやすい雑誌系のA5に、例年の中とじ製本から卓上製本機を導入してくるみ製本にしました。しかし結局それは体裁の問題であって、内容はだいたいいつもどおりの「担当の趣味」。がんばって書いたにせよ、客観的に劇的な差があるとも思えないのです。
それがどうして。こんな。だれかおしえてくれ。

リレーブログ十一回目「遥かな場所へ」(アーサー・C・クラーク『都市と星』)担当:鹿野

こんばんは。サークル最年長、鹿野です。
先日行われた文学フリマ、FSMではミステリー研究会と幻想文学研究会が参加いたしました。
そこで販売した二冊の機関誌、おかげさまで数多くの方に買っていただきました。
本当にありがとうございました。

そして、今年FSMが参加する即売会は冬コミックマーケットを残すのみ。
我々はそこで、SF研究会として「パンクSF特集」をテーマに機関誌「ASOV」を出します。
編集長が並々ならぬ熱意でもって製作している一冊、コミケにいらっしゃる際はぜひ私達のブースにお立ち寄りいただけたら
幸いです。

さて。前置きはこの辺にして、本の紹介に入りましょう。
今回私が紹介する作品は、SFの巨匠アーサー・C・クラークの『都市と星』(早川書房)。
ではまず、あらすじを。

「遠い未来の世界。宇宙進出に失敗し、地球に篭もらざるを得なくなった人類は、全てが機械によって管理される、
不老不死の都市ダイアスパーを建設。都市全てをドーム状の壁で囲い、未来永劫そこで思想と空想に浸り続けることを選択した。
しかし、そこにある異分子が生まれる。彼の名はアルヴィン。彼は空想に浸ることよりむしろ「外」に出ることを望んだ。
都市の住人全てが本能的に嫌う「外」への興味を抱いた彼が生み出した、壮大な物語」

まま、こんな感じです。
それではキーワードに行きましょう。

1.距離 ※前回からの引き継ぎです。
ともすればネタバレになってしまうので、言い方が非常に難しいのですが……作品の中盤で、主人公アルヴィンはある所へ行く決心をします。
それは主人公や、彼と同じ都市に住む住人達にとってはまさしく「信じられないこと」「途方も無い冒険」なのですが、
その遥か昔には「誰もが日常的にやっていたこと」でした。
昔の人にとっては日常的であるがゆえにあっという間の時間や距離が、その時のアルヴィンにとっては
果てしなく長いものに感じられてしまいます。

皆さんにも、このアルヴィンと似たような経験はないでしょうか?
例えば初めて一人で電車に乗った時、食事を作った時、そして学校に行った時。

今では特に何でもないようにしていることで、周りも同じようになんでもないようにしていること。
それがあの時、あの一回だけはジェットコースターに乗るのと同じくらいドキドキしたんじゃないかなと思います。

そんな、今では忘れてしまったあの感覚。ちょっとした距離が果てしなく思えたあの時間を
再体験することが出来るこの場面。個人的には本作で最もお気に入りの部分です。

2.魅力的な世界
本作の舞台である、都市ダイアスパー。
主人公アルヴィンはそこから外に出たいと思い、物語は始まるのですが……
言っちゃなんですが、正直私はこの都市から外に出ようだなんて絶対に考えません。

まず「不老不死システム」が素晴らしい。
この都市の住人は、誰も年をとりません。
青年期の姿のまま千年近く生き続け、脳の中身が様々なもので満ち満ちた辺りで「記憶の選別」、つまり
「自分にとって取っておきたい記憶」のみを脳の中に残し、巨大なデータバンクである「創造の舘」にて、長い長い眠りにつきます。
そして何万年か後、再び全く変わらない青年期の姿で「創造の舘」から出てきます。
その時前世の記憶は失われているのですが、時間が経つにつれて自分が選択した記憶が蘇ってくるのです。

つまり、この都市の住人は基本的に自分にとって都合のいい、価値があると思う記憶だけしか持っていないんです。
なんと羨ましい!

そして、更に魅力的なのが「サーガ」なる娯楽。
これは最近ライトノベルなどで流行っている没入型ゲームのようなものなのですが、そのバリエーションがとにかく凄い。
よくある冒険譚のようなものから、果てしない数学や哲学の問いへ挑むようなものまで。
単なるゲームに収まらない、無限の経験への入口がそこにあるのです。
しかも、常にドンドンと新しいサーガが作られているので、全て遊びつくすということが絶対にありません。
よくある「あの映画やゲーム、知らなかった状態でまたやりたいな」なんて思ったら
それこそ「不老不死システム」でそこの記憶を無くせばいいのです。
本当に羨ましい。

勿論、この都市の魅力はこれだけに収まりません。
クラークが全力で創りだした都市ダイアスパー。
ぜひ実際に読んでみて確かめて見てください。

3.壮大な謎
本作の世界は、遥か未来。舞台は都市。
では、それまでの間に何があったのか。そして、この都市の外はどうなっているのか。
なぜ、人々は都市の中に押し込められて住んでいるのか。

なんと、その真実ははっきりとわかっていないのです。
何があったか? 多分宇宙進出の中で何かあったんじゃないかな。
都市の外?  全部砂漠だよ砂漠。
なぜ人々が都市の中に?  考えたくない。本能的に、考えられない。

そんなわけで、都市の住人の殆どはこの謎に挑むことが出来ないのです。
主人公、アルヴィンを除いて。
彼は異常とさえ感じてしまう情熱でもって、都市の住人や、更に言えば読者さえ
振り切って前へ前へ。外へ外へと進んでいきます。

しかしそんな異常性でもってでしか解決出来なかったであろうと読了後感じてしまう、大きすぎる謎。
そして、後半に登場する変てこな登場人物。

謎と主人公がドンドンと物語を大きくしていくこの感覚、これこそが本作の醍醐味なのです。

さて。どうにかこうにかこの辺で。
本作は見所や面白さに満ち満ちた作品で、何度読んでも面白く、飽きません。
そして、読んだ後人と語り合ってみたい作品でもあります。
外に出るのが億劫なこの時期。
クリスマスだ忘年会だと浮かれる世間を他所に、一人濃密な世界に浸りきってみてみてはどうでしょうか。

リレーブログ十回目「若いころはよかった」(大場惑『ほしのこえ』)担当:黒井白蓮

どうも。前SF研会長の黒井です。
機関誌の活動には少し関わりましたが、ブログの場で書かせていくのは一回目でございます。みなさん初めまして。
大学に入学して何回目の冬だったか、この肌寒さにも慣れてきつつあります(もう今年で最後にしたいなぁ)
FSMの活動はこの時期になると、毎年の事ですが、やたらと忙しくなってきます。
かつて幻文研の機関誌は夏コミで出展させていただいたのですが、それを近年文学フリマであったり本の杜にその機会を変えると、時期変更のシワ寄せが来るようになりました。秋から冬にかけて普段はユルいサークルの雰囲気もすこしピリピリしてるように感じます。
さて、当然リレーブログの参加も初めてなのですが、優秀な後輩たちの業績を真似しながら、それっぽくやっていこうと思います。

私が扱う作品は「ほしのこえ」
2002年に新海誠が原案、脚本、監督を務めた映像作品を、大場惑によってノベライズ展開された作品であります。
世界観は私たちが住む世界より少し未来の世界。2039年、火星を訪れた探査チームは突如飛来した生命体タルシアンにより全滅される。発達した文明の中で、タルシアンの追跡調査のために国連宇宙軍が組織される。2046年中学生のノボルとミカコは剣道部に所属する中の良いクラスメートであったが、ミカコが国連軍選抜メンバーに抜擢され二人は宇宙と地球で離ればなれになってしまう。二人の連絡手段は携帯電話のメールであったが、調査が進むにつれて次第に二人の時間にずれが生じ、メールのやりとりは困難になっていくのであった……

Ⅰ「新しい価値観」※前回からの引き継ぎキーワード
 少年と少女の恋愛について扱う作品は当然存在し、それに遠距離恋愛を混ぜたとしてもまだ多い。しかし、この作品では選抜メンバーに抜擢されたミカコが搭乗型ロボットに乗り、タルシアンと戦闘を繰り広げるなど、このようにミックスしたジャンルはあまり存在しない。私が初めてこの作品に出会ったとき、この目新しさに驚嘆したものだった。設定にしても、SF作品並の細かな設定を扱っており、SF読みの方が読んだとしても納得頂けると思う。この手の作品を読まない人にとっては間違いなく新しい価値観が芽生える作品である。

Ⅱ「距離」
 宇宙と地球の距離を測る単位として、光年という言葉は世間的にも浸透している。ほしのこえでは、その尺度をメールのやり取りができる距離としており、その感覚はなかなか趣がある。作品の中に限らず、誰もが一般生活でその尺度を自分なりに変換していることが無意識にあると思う。ちなみに私は徒歩10分という単位を「自宅から最寄り駅まで」、360分を「講義を休める時間の限界」という認識をしている。この作品については離れていく距離感、そして嘆く二人の心情に注目して読んでもらいたい。

Ⅲ「思春期」
 少年少女時代は誰もが歩む通過儀礼であるが、当然恋愛について行動を起こさないまでも意識した人は多いはずだ。大人になるにつれて、皆が感情について簡潔に処理するようになり、自分がかつて悩んでいたことさえ忘れる。価値観の基盤を作りあげる思春期ならではの処理しきれない感情を、ノボルとミカコから知ることができる。私がこの作品に出会ったのは中学二年のころ、奇しくもノボルとミカコと年代の近いときであった。当時は共感したということこそなかったが、いま改めてこの作品を読み直すと、自分が思春期の頃のやきもきした感情を思い出す。それがどんなに黒歴史であったとしても……
 この作品とは関係ないが、原作の新海誠作品の多くはこの思春期特有の感情が多く扱われる。自分の思春期の悩みを彼の作品から思い出すことが出来るのだ。

もしまだこの作品に出会ってない方は先に映像作品から見ることをお勧めします。ノベライズは映像作品では扱われなかった設定やアフターストーリーが詰め込まれており、いうなれば映像では語られなかった部分の補填に近い。
当然ノベライズ版から読めば全貌もわかるが、後に映像作品を見ると特に目新しさもないため30分程度の映像作品から入ることが望ましい……はず。
次はおそらくFSMのレジェンド鹿野氏の投稿。私の失態を、彼なら見事に拭ってくれると信じて……それでは失礼いたします。

冬コミ当選告知におけるタイムラグかデマの可能性

そんなわけねーだろ!!

SF研副編集のサナギトウカです。今回の騒動につきまして、他の会員は関わっておりませんので、そこだけはご理解いただきたいと思います。たいへん申し訳ありませんでした。
えー、冬コミの正確な出展スペースは「30日(水)東メ59b」。頒布予定の会誌は「パンクSF特集」です。改めて、よろしくお願いします。

お詫びと言ってはなんですが、現在制作中のレビューページを先行して公開します。他の部分についても、おおよそこのような雰囲気で特集されると思われます。サイバー・スチーム・オカルト、三部門から一作品ずつ選んでおります。判断の参考になりましたら幸いです。

先出し:トランセンデンス

先出し:カント・アンジェリコ

先出し:ブラックロッド

リレーブログ九回目「中心のない世界」(時雨沢恵一『キノの旅』)担当:橋本

こんにちは。わたくし、新入会員の橋本と申します。

ようやく秋ですねえ。私は夏が嫌いなので、ようやく過ぎ去ってくれたかという気分です。
読書の秋と言われるように、この快適な季節の下で、より多くの物語に触れ、自分の中の世界観を育てていきたいと思います。
そして、文章力も……
今回は、ライトノベルでありながら、ほかの作品と一線を画す『キノの旅』について紹介したいと思います。

あらすじ
旅人のキノと言葉を話すモトラドが様々な国を訪れ、旅をする短編形式の話。
彼らが訪れる国々は、どこかおかしい雰囲気を出しており、時には危険な目にも遭う。
しかし、主人公らの心情描写はほとんどなく、客観的で、何か考えさせられるような世界観を醸し出している。

Ⅰ【言葉の力】
  ※前回の引き継ぎのキーワードです。少し意味を変えて使用させていただきます。
 ます、この物語の特徴と言ったら、ほとんどが客観的な描写であるという点です。
こんな感じで淡々と話が展開するので、何の前触れもなく残酷で予想もできない展開になることもあり、
このおかげで、「だからなんなの??」と言いたくなるような話も多くあります。
しかし、『緑の海の中に、茶色の線が延びてきた。』、『エルメスと呼ばれたモトラドが悲鳴をあげた。』
このような描写を積み重ねることにより、多様な解釈ができるという面白さがあると思います。
また、その大半が、広大な荒野とそこを駆けるモトラド(バイクのことです)にまたがる人間、この広い世界に点在する国、村、
っといったスケールの大きなものです。宇宙にもたとえられるような……
こういった世界観を出せるのは、そう、作者の言葉の力のなのです。

Ⅱ【新しい価値観】
 読んでいて思うのですが、出てくる国々はみなどこかおかしいのです。
しかし、そこで生活する住人はそれが普通のことであるかのように振舞います。
そして、主人公キノはそれが残酷だろうと、喜ばしいことだろうと、同情もせず、ただ見つめ続けるっといった態度を
貫きます。時には主人公だって、え?っと思うようなことを平気でします。
しかし、その世界では当たり前のことなのです。我々が共有する常識があるように、彼らにもまたあります。
もちろん、現実世界にも同じようなことが言えます。われわれが見ている世界はほんの一部でしかない。
この「キノの旅」に驚かされるのは、いかに私が固定観念に縛られているかを思い知らされるところです。

Ⅲ【ジェンダー】
 ジェンダーとは社会的、文化的に形成された性のことをいいます。
女は優しくあれ、男はたくましくあれ、といったフレーズもそれにあたりますし、
物語のヒロインは可愛いくなければならないといったものもそうだと思います。
ほとんどのライトノベルのヒロインもこの原則に縛られていると私は思います。
しかし、なんと主人公キノは、はっきりと性別が示されておらず、セリフの言い回しも
敬語を使うので、推測もできません。(ただ、読んでいくうちに、キノの性別が示唆されているところが所々にある)
キノはジェンダーから解放された数少ないキャラクターなのです。
最近、メディアでも、女装家、ゲイ、レズビアンなどが徐々に取り上げられていますが、
出版された年がゼロ年代初頭だという点を考えると、とても斬新で、先進的なように感じられます。

以上です。冗長な文章でしたが、ここまで読んでいただいた方に、心より感謝申し上げます。
そして、これからも橋本をよろしくお願いします。